51 『マスカレードナイト』
「決まったー! 両選手の激しいぶつかり合いに熱くなりました! 会場のボルテージも上がって、次からの試合も熱狂間違いなしだ! 本日の初戦、ありがとうございました! さあ、勝利者インタビューです」
このよく響く声は、『司会者』保見黒野のものだ。
クロノはこの円形闘技場コロッセオで、魔法戦士同士の試合の審判と司会を兼ねたリングアナウンサーといえる。
年は四十がらみで、背が高く体格もいい。
もしかしたら、選手同士でなにかあれば止めに入ることもできる実力もあるのではないかとサツキは思っている。
そんなクロノは、サツキとミナトに対して大きな期待をしている様子である。
シングルバトル部門とダブルバトル部門のバトルマスターであるロメオとレオーネの友人だということが大きな要因だろう。
暗い通路で出番を待っていると、一分ほどしてクロノのインタビューも終わり、試合に勝った選手が通路に戻ってきた。
武闘家っぽい青年で、彼はサツキを一瞥するのみで通り過ぎていった。
――よし。次は俺の出番だ。
会場からは声援が聞こえている。
しかし大人気の魔法戦士という感じはない。むしろ、あまり有名な人ではないと思われる。
「行こう」
再び歩を進め、通路を抜ける。
外の光を受ける。
会場は次の試合への期待を高めるようににぎにぎしい。
階段を踏みしめ、舞台に上がった。
クロノがサツキの姿をみとめる。
「こちらも選手の登場です! さあ、両者そろったところで、紹介に入りましょう!」
サツキは対戦相手を見る。
すでに待っていた対戦相手。
それは、仮面をつけた騎士だった。目と鼻を覆ったもので、口から下は見えている。髪はライトブラウン。仮面の下にある瞳は切れ長なようだが、ハッキリとはうかがえない。貴族服をまとった一七七、八センチほどの青年で、西洋剣や衣服には硬貨を五つ連ねたような模様が入っている。
――あの模様、よくあるデザインなのか……?
見たことはあっても、それがなんなのかわからないサツキである。
それはともかく、スマートな印象の青年である。
クロノは紹介を始めた。
「まずは、一昨日が初参戦、昨日一昨日と勝ち続ける期待のルーキー『波動のニュースター』城那皐選手! なんと彼はレオーネさんとロメオさんとはご友人です。本日の試合も注目が集まっています! 対するは、今日が初出場の挑戦者、『仮面の騎士』選手だー! 本名は伏せての参加とのことです!」
「よろしくお願いします、サツキさん」
対戦相手から声がかかったので、サツキも挨拶を返す。
「よろしくお願いします」
仮面の騎士という名は、見たままの特徴だ。それ以上の情報を名前からは得られない。
――コロッセオは、本名じゃなくても参加できたのか。
などと、どうでもいいことを考えてしまう。
クロノはサツキと仮面の騎士を交互に見て、会話をしないのを確認し、さっそく試合の開幕を宣言する。
「両者、どんな試合を見せてくれるのでしょうか! それではさっそくまいりましょう! レディ、ファイト!」
即、サツキは開眼した。
――《緋色ノ魔眼》。相手の動きを見切る。どんな魔法が来るんだ。
相手が駆け出してきたので、サツキも迎え撃つように前進した。
剣と剣がぶつかる。
数度、剣を合わせて、サツキは下がる。
――かなりの剣術。相当強い。だが、俺はいつもミナトを相手にしてる。これくらいなんてことない。特殊な魔法を使ってこない限り、こちらの取る手段は一つだ。《静桜練魔》で魔力を圧縮し、機を見る。
やや防御寄りな立ち回りでサツキは仮面の騎士と戦う。
仮面の騎士は攻めあぐねているといった顔ではなく、常に余裕な表情をたたえていた。
「フ」
と微笑み、鮮やかな剣さばきで、じりじりとサツキを追い詰めてゆく。
――俺の目は、動体視力も補強される効果がある。魔力を見ることで筋肉も浮かび上がり、その躍動まで視認して、先を読める。それも、随分と鍛えてきたし、潜在能力も引き出してもらった。剣術の腕も上がった実感もあった。なのに、この人の剣を受けるのは至難だ。ミナトみたいな『神速の剣』ってわけじゃない。だが、流れるように美麗で洗練されている。
クロノが水球貝を握りしめる。
「素晴らしい攻防です! 両者、どちらも鮮やかな立ち回りで決定打にはならなーい! まるでダンスでも踊っているような流麗な剣だ! 仮面舞踏会のようです! 魅せてくれます、仮面の騎士選手! 両者、魔法による攻撃はまだありません! どうなるんだー!?」




