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39 『アンダスタンドチェンジ』

 ミナトが聞いた。


「ねえ、サツキ。戻ったらまた修業する?」

「そうだな。やろうか」

「よし。じゃあ走ろう」

「急がなくてもいいのに」


 と、サツキは苦笑した。

 二人で走り出してすぐ、道の端によく知る顔があった。

 陽気な二人組、アキとエミ。

 今朝、食べ歩きをしてくると言っていた。今も手にはジェラートを持っている。どこまで足を伸ばすのだろうと思っていたが、案外近場だったらしい。


「あ、サツキくーん!」

「ミナトくんもいるね!」


 アキとエミが呼びかけて、サツキとミナトは足を止めた。


「どうも」


 にこやかにミナトが手をあげた。

 サツキは「こんにちは」と挨拶してから言った。


「アキさんとエミさんはここで食べ歩きでしたか」

「お二人のことだからもっと遠くに行ったと思ってました」

「ここでもちょっとだけ食べたけど、昼間は北のほうに行ってたんだ」

「小槌任せで魔法道具を使ったら北に行っちゃったんだよ。なんて町だったのかな? アキ、わかる?」

「さあ。でも、おいしかったね」

「うん。ビールもおいしかったしサイコーだったよ!」

「へえ。いいですなあ」


 三人の会話を聞いて、サツキは「あはは」と苦笑を浮かべた。


 ――ビールって、もしかしてミゲルニア王国のほうまで行ってたんじゃ……。


 エミの魔法、《(うち)()()(づち)》。

 これは人や物を大きくしたり小さくしたりできるほか、「なにか出てこい」と言って小槌を振ると、そのときその人が必要としている魔法道具を出してくれる。術者本人さえどんな魔法道具が出てくるのかわからないランダム性の高いもので、文字通りなにが出てきてなにが起きるかわからない魔法だった。

 小槌を使えば、アキとエミが自覚していなくとも、イストリア王国の外までお出かけしていても不思議じゃない。


「僕らは今からロマンスジーノ城に帰るところなんですが、お二人はまだ食べ歩きするんですかい?」

「アタシたちも帰ろうと思ってたところだよ」

「だからいっしょに帰ろう」

「そうしよーう」

「おー」


 三人が楽しそうにしているのを見て、サツキも「じゃあ行きましょうか」と言った。




 四人でロマンスジーノ城に戻った。

 アキとエミは、


「ボクたちはバンジョーくんに今日食べたおいしいものの報告してくるね」

「バンジョーくん、楽しみにしてると思うからね」


 とのことだった。


「ご飯ができたら呼びに来るよ!」

「修業ファイトー!」


 跳ねるような足取りでアキとエミはバンジョーのいるキッチンへと向かった。

 サツキとミナトは、中庭で修業だ。

 いつもサツキがかぶっている帽子から、竹刀を二本取り出した。この帽子は《()(どう)(ぼう)()()(ざくら)》。魔法道具であり、中は四次元空間になっている。そこに修業用の竹刀をしまっているのだ。

 竹刀で打ち合い始め、高速の剣が乱れる。

《波動》の力が剣に巻いて、ミナトの剣を払う。

 さっとミナトが距離を取ると、サツキは竹刀を下ろして聞いた。


「今日の試合、反省点はどこだと思う?」

「それって、シングルバトル? それとも、ダブル?」

「どちらも。ダブルバトルは当然二人で考えるとして、シングルバトルも意見がもらえたらありがたい」

「シングルバトルはよく見て戦えていたし、反省点はないよ。あとは攻撃を一度もくらわないくらい剣の腕を磨けたらいいかもね」

「ふむ。ダブルバトルは?」

「いやあ、そっちは僕の甘さが隙をつくってしまって申し訳ない。サツキは常に冷静だったし指示も間違ってなかった。悪いのは僕だ」


 そう言うミナトの微笑みには、抱え込むような心苦しさも卑屈さも感じない。いつもの抜けるような透明さである。だからサツキも変な気を遣わずに言える。


「逆だ。観察と修業のために、ミナトの行動を遅らせてばかりでいた俺のせいだよ。ミナトは悪くない」

 もしミナトが本気を出せれば、一瞬で片がついた。刃物を使う性質上、相手に大怪我をさせることにはなるが。

「あはは。そういうパターンもあるかァ。でも、僕も迂闊だった」


 おかしそうに笑うミナトを見ていると、サツキも表情が和らぐ。


「やはり自分の反省点は自分のほうが心当たりもあるものだな」

「そりゃあねえ。まあ、そんな反省点を得られたのも収穫ではあるが、それ以上の収穫は互いの成長を感じられたことだよ。サツキの瞳も、見えるものが増えた。僕たちの技も増えた」

「うむ。となると、このあとに控える『ゴールデンバディーズ杯』のためにも、意識すべきは……」

「コンビネーションだと思う」

「同意だ。だったら、とにかく経験を積むことだな」

「昨日のパフェ作りもそうだし、二人で呼吸を合わせられるようになるのが大事だね。ただし――」

「ん?」


 ミナトの瞳が夕陽をキラリと返した。


「相手のことを、わかったつもりにもならないことだね。今日の僕らと明日の僕らは違う。サツキは僕以上に実感しているだろうけど、互いに驚くほど成長している。油断も奢りもなく、互いへの理解を得るために努力を欠かさないことだ」


 サツキは目を閉じた。


「確かに。なんだか、親しき仲にも礼儀あり、って感覚に似ている気がする」

「そうかもね。サツキの考えてること、わかるよ」


 二人でささやかに笑って、そこに、ぱたぱたとやってくる足音があった。

 足音は三人分だとわかる。

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