31 『スーパーオーラ』
『司会者』クロノが水球貝を握りしめて実況する。
「おそらく、次の攻防で試合も決まることでしょう! みんな、ここからはまばたき禁止で見てくれよ!」
サツキは、右腕全体をおおうように《波動》をまとわせた。
昨日、レオーネとロメオとの模擬戦闘で聞いたことを思い出す。
レオーネは《波動》を特別だと言った。
ロメオもこう言った。
「《波動》はその力を高めれば、いずれ《打ち消す拳》を無視してその効果を振るうことができるでしょう。ワタシは《打ち消す拳》を使う性質上、他者の魔力や魔法道具の魔力反応には敏感なほうです。特に、接触した際の感覚には。それで言えば、サツキさんの《波動》はバリアのようなものを感じます」
バリアというのもロメオなりの感覚であり比喩であるだろうが、そのおかげでさっきもブリュノの魔法《魔封じ突き》を振り払えたのだと思われる。
だったら、あとは《波動》をまとってブリュノに立ち向かうだけだ。
――俺の《波動》で突き破る。
ブリュノはまた姿勢を正す。
「アンガルド!」
「……」
構えを取り、にらみ合う。
そして、二人が同時に舞台中央へと駆け出した。
サツキは刀を左側で下げたまま両手で持ち、加速してゆく。
――魔法の突きか、通常の突きか。見極めて、《魔封じ突き》に《波動》をぶつける。
距離が近づき、サツキは動体視力の高まった瞳で捉えた。
――見えた。最初から来る!
レイピアが魔力をまとっている。最初から《魔封じ突き》の魔法を繰り出してくるつもりらしい。
だから、サツキも《波動》をまとった刀を振った。すくい上げるようにして右上方へ一閃。
レイピアには、この形でぶつけるのがやりやすかった。サツキにとってはタイミングが取りやすく、レイピアに合わせることができた。
「はああああぁ!」
「すああああ!」
刀とレイピアがぶつかり合う。
「《波動桜撃》」
「《魔封じ突き》」
金属音が響いて力と力が衝突してすぐ、
「……!」
ブリュノのレイピアが弾かれ、ブリュノの手から離れた。レイピアはクルクル飛んで場外に落ちた。
「フ」
サツキはちょっと得意げな顔で、すっと刀の先をブリュノに向ける。
これに、ブリュノは両手をあげて爽やかな笑顔を浮かべた。
「スーパーだったよ、サツキくん。まいった。キミの勝ちだ」
「決まったあああああ! サツキ選手の新技、《波動桜撃》がブリュノ選手の《魔封じ突き》を振り払い、見事勝利を手にしました! ブリュノ選手からの賞賛の言葉に、サツキ選手も笑顔を見せます」
クロノの判定後、サツキはブリュノにお礼を述べた。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。ボクがコロッセオで戦ってきた中で、今日が最高の試合だったよ。負けても美しい剣を振るうことができて、ボクは輝いているんだ。会場からの声援もおさまらない」
会場に手を振るブリュノは、まるで勝者のようなエレガントさである。
不思議な気持ちになりながらも、サツキは聞いた。
「《魔封じ突き》は、あの剣に触れた場所が人体でなくとも……たとえば、剣同士が触れ合った場合でも、魔力が封じられるんですか?」
「ああ。そうだよ。武器を突いたとしたら、その武器は魔法を発現するための媒介ではいられないし、武器に魔力をまとわせるようなこともできない。キミはその点も踏まえてか、うまく戦っていたね。おかげで、ボクのレイピアも洗練された美しい軌跡を描き続けていた。それだけで、ボクは満足さ」
そうですか、とサツキは小さく笑った。
「ラッサンブレ・サリュー」
ブリュノが急にそう言って姿勢を正す。サツキも急いで背筋を伸ばして立ち、ブリュノに合わせて礼をした。
この間にもコロッセオのスタッフがブリュノのレイピアを拾ってきて、舞台を下りようとするブリュノにレイピアを渡していた。サツキも舞台を下りる。
『司会者』クロノはサツキとブリュノを見送るように言った。
「二人共、最後まで騎士道精神と武士道精神に溢れた姿だったぞ! 今一度、二人に盛大な拍手を!」
人気選手のブリュノと健闘したサツキを讃える拍手がコロッセオの空に鳴り響く。
「サツキ選手もミナト選手に続いてシングルバトル部門二勝目をあげ、ブリュノ選手は四十一勝二十九敗。ここ数ヶ月では久しぶりの黒星となりましたが、レイピアの鮮やかさにはますます磨きがかかっています。二人共、今後の活躍が楽しみです。サツキ選手の新技がどんな技なのか気になるところですが、本日のシングルバトル部門が終わり、ダブルバトル部門への参戦も控えておりますので、サツキ選手の新技のタネ明かしは次回以降の試合に期待しましょう。それでは、少し休憩を挟んだら、ダブルバトル部門開始です! みなさんしばらくお待ちください! ダブルバトル部門の残る五試合も、楽しんでいってくれー!」




