7 『リサーチプリファレンス』
『幻の秘境』神龍島でお菓子作りをした参番隊。
その翌日から、三人はクコのお誕生日大作戦を開始した。
神龍島を探険している中で、クコがワクワクしながら恐竜を見ているところで、
「クコさんは恐竜が好きみたいですね」
とチナミが言った。
「はい! どの子も違っておもしろいです」
「ふふ。クコさん、楽しそうです」
「こんなこと、今までありませんでしたから」
チナミがそれとなくクコに探りを入れる。
「クコさんは、士衛組のみんなといて、どんなときが楽しいですか?」
「みんなが集まっているといつも楽しいです。いっしょになにかするのも楽しいんですが、ただいっしょにいられるだけで、士衛組のみんながいると楽しくなります」
すぐそばで話を聞いてリラとナズナは、チナミが誕生日ケーキのために調べてくれているとピンときた。二人は顔を見合わせてうなずき合い、さっそくリラも質問した。
「お姉様はどんなケーキが好きですか?」
「ケーキ? なんでも好きです!」
あちゃー、と思いチナミはちっちゃな手で額を押さえた。
――ストレート過ぎる、リラ。
しかしクコは気にしていないようだし、リラは次の質問を繰り出した。
「お姉様、好きなものってなんですか?」
「え、好きなものですか。、急に聞かれると難しいですね。たくさんあって考えてしまいます」
「ふふ。ゆっくりで、いいよ」
とナズナがおかしそうに笑った。
クコが「そうですか?」と笑い返して、難しい顔がほどける。
「んー……そうですね、旅が好きになりました。お城から旅立って、サツキ様と出会うまでは勇者様を喚び出さないとって必死で周りも見えていませんでしたが、サツキ様と旅をするようになって、士衛組のみんなと出会って、気づいたら旅が好きになっていました」
「そっかぁ、わたしも旅、好きになってたよ。クコちゃんたち、みんなといっしょ、だからかな。どこを行くのも、楽しみで、楽しくて」
ナズナの言葉にクコも共感して、
「そうかもしれませんね。士衛組のみんながいっしょだから、ワクワクも大きくなって、新しい景色を見るときも喜びも大きくなったり、楽しい思い出も大きくなっているような気がします」
「みんなといると、いろんな気持ちが、ふくらんでいくよね」
と、ナズナがにこっとした。
「はいっ! 話していて気づきました。みんなで旅をしたおかげで、好きな場所も増えましたし、旅っていいですね。士衛組のみなさんがいるからそう思えるんですね」
「きっと、そうだね。知らない場所でも、クコちゃんの笑顔を見ると、わたしもうれしくなって、好きな場所になってるから」
「そうなんです! 照花ノ国の思い出だけでも、サツキ様と寝転んだ『星降高原』の黄色いキスゲ畑、サツキ様がうれしそうに見上げた星空、サツキ様が美味しそうに食べていた笹栗原牧場のアイス、どれも鮮明に覚えています。全部そのとき好きになった場所です」
クコとナズナが話すのを聞いて、チナミは少々意外に思った。
――へえ。ナズナって、案外聞き上手だ。でも、そっか。口下手な私とこんなに仲良くなってくれたんだ、それってナズナのこういうところに助けられてたからなんだな。……まあ、リラがあんまりストレートに質問したときはひやっとしたけど。
ちょっとうれしい発見である。クコもなぜこんないろいろ質問されているのか気にしていないようだし、チナミは黙ってクコの話を頭にインプットすることに集中した。
ナズナが聞き役に徹して「うんうん」とうなずき、クコが話を続ける。
「そのあとの旅もたくさんいろんな場所を訪れました。『王都の奥座敷』紀努衣川温泉街では、ルカさんに連れて行ってもらったトチカ文明の壁画を見たのですが、サツキ様が興味津々で、わたしも楽しくなりました。王都では、いつもだったらナズナさんのおうちにお泊まりして帰るとき、すごく寂しかったのですが、今回バンジョーさんが走らせる馬車から見た遠ざかる王都を見たときは違いました。ナズナさんとチナミさん、バンジョーさんと玄内先生もいたから、ワクワクしていたんです」
「そういえば……昔、ばいばいするとき、わたしたち、さみしくていつも泣いてたね」
ナズナがそんなことを思い出すと、リラもくすりと笑って、
「泣いてたね。もう会えなくなっちゃうわけじゃないのに、別れがつらくて」
「二人は涙もろかったのでそうでしたね。わたしもつられて泣いてしまいました」
クコが懐かしそうにそう言うと、リラがにやりとして、
「つられて? お姉様が一番泣いていた気がしますが」
「そっ、それは、リラとナズナさんの泣き方がおしとやかなんですよ」
とクコが慌てて、リラとナズナとチナミは笑った。
照れ隠しなのか、クコは話を戻す。
「でも、仲間との旅はいいですね。この神龍島も恐竜さんとたくさん触れ合えて楽しいです。素敵な思い出になるでしょうね。それもこれも、士衛組のみなさんといっしょに共にあったから、旅で訪れた場所がみんな好きな場所になっていったんだと思うんです」
「たくさん、旅してきたね」
「はい」
チナミは話の切れ間で、
「さて。私たちがおしゃべりしているうちに、アキさんとエミさんがずんずん進んでしまいました。急ぎましょう」
「はい」
チナミが声かけしてこの場を切り上げ、また別の調査方法に移った参番隊なのであった。
それは参番隊で何度か話し合ったあとのこと。
参番隊はサツキに相談した。




