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5 『メイクディトール』

 夕食は、昨日と同じ大広間になる。

 みんなで向かおうとしたところで、サツキはミナトに言った。


「ちょっと部屋に寄っていくから、先に行っててくれないか」

「わかった」


 ミナトが手をひらりとあげ、レオーネとロメオも間髪を入れずに、


「オレたちも先に行ってるね」

「では」


 と歩いて行った。

 クコは遅れて聞いた。


「あの。わたしはサツキ様について行ったほうがいいですか?」

「ついてきてくれると助かる」

「はい!」


 二人で廊下を歩きながら、クコが気になっていたことを問う。


「コロッセオはいかがでしたか? まだお聞きできていなかったので」

「俺もクコにその話をしたかったんだ」

「はい、なんでもお話しください! お聞きしますよ」


 いつもはクコの話をよく聞いてくれるサツキだから、サツキも話したいことがあるならクコはなんでも聞きたかった。


「観客が多くて、さすがにマノーラ最大の興業って言われる施設だけある。驚いたよ」

「緊張されずに舞台に立てましたか?」


 心配するお姉さんのように尋ねるクコに、サツキは微苦笑を浮かべた。


「たぶん。緊張も、ちょっとだけだ」

「ふふ。さすがですね」

「初戦の相手が、(せい)()(じん)でさ、年も近かったから、会場の空気に飲まれずに戦えたんだと思う」

「晴和の方も参加されているんですね」

「うむ。《(もち)(はだ)》って魔法を使う魔法戦士で、刀も打撃も効かなくて困ったよ」

「《餅肌》ですか。かわいい名前なのに」

「クコがメイルパルト王国で戦ったスライム使いのプリシラさんに近いかもしれない」

「なるほど! あれにはわたしも苦戦しました!」


 そう言って、クコは少し照れたように笑った。クコは最後、《グリップボード》という技を使い、相手の顔にスライムを投げつけ、摩擦で剥がれないようにしてなんとか勝利したものであった。クコにとっては、スライムに翻弄されたことも勝ち方も、恥ずかしく滑稽な戦いだった。


「ダブルバトルっていうのもあって、ミナトと出場したけどうまく戦えなかった。ダブルバトルがどんなものか、まるで理解してなかったんだ」

「二人で力を合わせないといけませんし、難しいですよね」

「ああ。力を合わせることさえ、よくわかってなくてな。最初はバラバラにそれぞれの相手を決めて、相手の連携を見て、こっちもやっと二人で攻略したんだが、おもしろい魔法を使う相手だったよ」

「どんな魔法ですか?」

「《脱出不可能(アリアドネ)(いと)》っていう、魔法陣みたいな魔法なんだ。地面に目に見えない糸を張り巡らせ、その範囲内にいる相手の攻撃を、自分の盾に集める。それで、もう一人が隙だらけになった相手に攻撃してきた」


 試合展開についても話して、サツキは思い出したように、


「そうそう。なにより驚いたのは、バトルマスターがレオーネさんとロメオさんだったことなんだ」

「バトルマスター?」

「言わば、コロッセオの象徴でありトップである存在かな。コロッセオは、五十勝すればバトルマスターに挑戦できて、それはシングルバトル部門とダブルバトル部門両方がそうでさ。バトルマスターに勝利すれば、その人がバトルマスターになる。賞金はバトルマスター防衛でももらえて、ダブルバトル部門はレオーネさんとロメオさん、シングルバトル部門はロメオさんがバトルマスターだった」

「まあ! お強いんですね」

「うむ。強かった。ほかの参加者たちだっていろんな魔法があるから、観察や分析の練習にもいいし修業にもってこいなんだ。王女としてあんまり目立ちたくないなら、考えながら見るだけでも勉強になると思うぞ」

「わたし、サツキ様の試合見に行きたいです!」

「それなら、『ゴールデンバディーズ杯』っていう大会は盛り上がるって聞いたしいいかもしれない」

「大会もあるんですね」

「俺とミナトもそれに出場するために、残る三日のうち二日は勝たないといけないんだ」

「いけそうですか?」

「たぶん。ミナトとの連携次第だけど」

「『ゴールデンバディーズ杯』も楽しみですが、サツキ様とミナトさんが大会に出場できるよう、応援に行きたいです。いいですか?」

「もちろんだ。いつがいいだろう」

「明後日かその次か、わたしもルカさんとの修業で自分なりに満足してからにしたいんです」

「わかった。クコも修業、頑張れ。応援してる」

「ありがとうございます」


 サツキはうむと口元を微笑ませた。


 ――ダブルバトルの観戦はチーム戦略の向上につながるだろうし、シングルバトルの観戦も勉強になるはずだ。クコも応援に来てくれるなら、もっと頑張らないとな。




 部屋の前まできた。ロマンスジーノ城では、客人である士衛組の隊士それぞれに部屋を用意してくれているのである。

 クコは聞いた。


「サツキ様、ご用事はなんのです?」


 だが、サツキは足を止めて首をひねった。


「なんだったかな。忘れてしまった」

「うふふ。お話しされるのに夢中になっていましたものね。また来ましょう」

「悪いな。ただ遠回りさせてしまって」

「いいえ! お話しできて楽しかったので!」


 ――ふふ。こんな回り道にも、ささやかな幸せを感じられますね。


 今日は別行動でおしゃべりできなかった分、クコはそれだけで満足だった。




 二人並んで、大広間へと歩いて行く。

 大広間の扉は閉まっていた。

 サツキが扉に手をかけて、クコに言った。


「さあ。開けるぞ」

「はい」


 扉を開けると、サツキはクコを振り返った。

 クコは驚いた顔になる。

 それも当然だった。

 さっきまで普通の大広間だった部屋が、まったく別の空間に変わっていたからである。

 部屋中が華やかに飾り付けられている。

 カラフルなバルーンや花々に、旗も吊り下げられ、真ん中には大きなケーキがそびえ立っている。高さは三メートルくらいあるのではないだろうか。

 士衛組のみんなのほか、この城館に暮らすヴァレン、レオーネ、ロメオ、ルーチェ、リディオ、ラファエル、グラートが笑顔で迎えてくれている。さらに、さっきまでは出かけており姿もなかったアキとエミもいた。

 ロマンスジーノ城の持ち主にして、『ASTRA(アストラ)』のトップでもある『革命家』時之羽恋(ジーノ・ヴァレン)

 レオーネの妹で、『メイド秘書』振作琉知(ブレッサ・ルーチェ)

ASTRA(アストラ)情報局』の二人、『ISコンビ』。ロメオの弟で『技術部』狩合璃照緒(カリア・リディオ)と城館の元の持ち主の元貴族『保安部』或縁丹等笛瑠アルベリーニ・ラファエル

 ラファエルの家に仕えていた執事、井空蔵途(イゾラ・グラート)

 ちなみに、『ASTRA(アストラ)情報局』は組織に集まる情報の統括を行い、ヴァレンやレオーネやロメオたちに報せる機関といってよく、割と最近になってできたらしい。『ISコンビ』の「IS」は「インテリジェンスサービス」の略で、これは情報局を意味する。つまりそこに所属するコンビということだ。

 ヴァレンは二十四歳になり、ルーチェはレオーネの三つ下の十八歳、『ISコンビ』はロメオより十歳下の十一歳で、グラートは六十歳を過ぎた老紳士である。

 そこにレオーネとロメオを合わせた七人がここには暮らしており、昼間は用事で外に出ていたヴァレンとルーチェも戻ってきていた。

 最後に、(めい)(ぜん)(あき)(ふく)寿(じゅ)(えみ)

 アキとエミは、年は十代の半ばくらいに見えるが二十歳で、次の一月一日には二十一歳になる。

 頭には日の丸を描いたサンバイザーをかぶり、オレンジ色の半袖のパーカーを着て、背は一六五センチほど。首からはカメラを下げている。

『トリックスター』とも『(ほし)(ふり)(よう)(せい)』とも呼ばれる不思議な二人組である。

 サツキがこの世界にやってきて、クコと追っ手のアルブレア王国騎士以外では、初めて出会った人間だった。

 そのときに、今ではすっかりサツキのトレードマークにもなったこの帽子をもらい受け、それ以来、旅の先々で何度も出会いと別れを繰り返してきた。

 総勢二十人ほどがこの場に集う。

 驚いた顔になるクコに、サツキは笑顔で声をかける。


「クコ。誕生日、おめでとう!」

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