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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編】
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幕間紀行 『ファントムケイブシティー(7)』

 テラータの町は、ほとんど渓谷の斜面を利用して作られている。

 だが、それは渓谷の一部であり、上部だけである。

 そのため町の端に行けば渓谷が望めるし、そこから渓谷の斜面を下りて行けば、どこかに洞窟の横穴が見つけられるという話だ。


「この斜面を下りるのは、簡単じゃないね」

「うん……」

「向こうはそれほど急斜面にはなってないかも。私はどこからでもいいけど」


 リラとナズナはどうやって下りるかキョロキョロしているが、チナミは忍者の動きを学んでいるだけであって、こんな斜面はへっちゃらのようだった。


「サツキさん、どうしますか?」


 チナミがサツキを見上げる。


「せっかくリラとナズナがいるんだ。リラの小槌を使おう。小槌は、魔法道具だったよな?」

「はい。そうですよ、サツキ様」

「魔法を使う媒介としての道具ならば、術者しか使えない。だが、ただの魔法道具ならだれでも使える。だから、小槌で俺とリラを小さくして、ナズナが空を飛んで俺とリラを運び、チナミはナズナになにかあったときのために注意しながら崖を駆け下りてほしい」


 淀みないサツキの指示に、チナミが小さな手をぽんと叩いた。


「その手がありましたか」

「素晴らしいアイディアですね」

「じゃあ、わたしが、二人を運べば、いいんだね」


 ナズナは空を飛ぶことができる。当然、魔法の力による。ナズナの魔法、《(てん)使()(はね)》は背中についた作り物の白い翼をぱたぱた羽ばたかせれば自由に空を飛べるのである。

 この世界において、空を飛べる術者は非常に少なく、かなりレアな魔法といえる。

 リラは、小槌を取り出した。


 ――この小槌は、法師様にいただいた《(うち)()()(づち)》。エミさんの魔法と同じ効果を持つ魔法道具で、振ればものを小さくしたり大きくしたりできる。まさかリラ以外が使う作戦があったなんて。


 旅の中で、リラはとある法師に出会った。その法師とは(れい)()(くに)からガンダス共和国までをいっしょに旅して、最後に魔法道具をいただいた。それが小槌だったのだ。

 小槌の元の持ち主は、士衛組の友人の『トリックスター』(ふく)寿(じゅ)(えみ)。いつもいっしょにいる(めい)(ぜん)(あき)と二人旅をしており、士衛組の旅とたびたび交錯する不思議な存在だった。

 つい今日の昼間にクローネの町で一度別れたばかりで、また会えるときを楽しみにしている二人だ。

 小槌をナズナに差し出して、リラはその手に握らせた。


「お願いね、ナズナちゃん」

「うん」


 ナズナは小槌を振る前に、サツキに向かって質問した。


「あの、サツキさん。先に確認しておくこと、ありますか?」

「なんなりと」


 チナミも促すが、サツキは首を横に振った。


「いや。特別なことはない。横穴があれば近づいてみるが、細心の注意を払うのを忘れないように。そして、戦闘は避けること。もし敵に見つかって攻撃されそうになったら、戦いになる前に撤退して隠れる。それだけだ」

「わ、わかりました」

「了解です」


 実働部隊ともいえるナズナとチナミが答え、リラがサツキの横に並ぶ。


「ナズナちゃん、使い方はわかるよね」

「うん。前に、リラちゃんが、テディボーイを大きくしてるの、見てたから」


 以前、メイルパルト王国でナズナとリラは力を合わせてアルブレア王国騎士と戦った。そのとき、テディボーイというキャラクターのぬいぐるみをリラが魔法で実体化して、小さかったぬいぐるみを大きくしてみせた。もちろん、この小槌を振ることで。

 それを思い出して、ナズナは小槌を二人に向けて振った。


「う、《(うち)()()(づち)》さん、お願いします。ちいさくなーれ、ちいさくなーれっ」


 すると、サツキとリラは小さくなっていった。ナズナの手のひらにも乗るサイズになる。


「本当に小さくなったね」

「ありがとう、小槌さん」


 チナミは人が小さくなるところを初めて見る。(しん)(りゅう)(じま)を訪れたときは、馬車を小さくしたものだが、人もこんなに簡単に小さくなるのはやはり不思議だった。

 ナズナは小槌をいつも手に持っている巾着にしまった。ネコの顔の巾着で、実はこれも魔法道具になっている。《(しょう)(げん)(ぶくろ)》といって、見た目に反して五十リットル分ほどの収納が可能である。

 小さくなった二人を見て、ナズナはしゃがんで微笑み、手を伸ばす。


 ――サツキさんもリラちゃんも、小さくなってかわいい。


 サツキとリラがナズナの手にのぼり、チナミは巻物を取り出して口にくわえた。巻物を口にくわえれば、忍者の衣装に変身できる。

 本日二度目の変身をして、チナミは額当ての位置を直した。


「さて。準備はできました」

「うむ。二人共、頼むよ」


 サツキに言われて、ナズナとチナミは「はい」と声をそろえる。


「リラ。参番隊のあれ、やらなくてもいいのか?」

「あれ、ですか?」


 首をひねるリラに、サツキは言った。


「鬨の声だ」

「それですか! では、やらせていただきますね。ナズナちゃん、チナミちゃんいい?」

「もちろん」

「いいよ」


 二人が答え、リラが声をかける。


「じゃあいくよー。参番隊っ」


 と言うと、三人は鬨の声を上げた。


「えい! えい! おー!」




 ナズナがサツキとリラを手に乗せて空を飛び、チナミが足元の悪い渓谷を忍者のように駆ける。

 手のひらから、サツキがナズナに言った。


「ナズナ。岩場に向かって、超音波を出してくれるか?」

「は、はい」


 すぅっと息を吸って、


「あー」


 と声を出した。


 ――わたしの《超音波探知(ドルフィンスキャン)》は、地形の把握とか、障害物とか、いろんなことを読み取れる。でも、まだまだ精度は低いのかも……。


 超音波を渓谷に向かって発しても、ナズナにわかることはなにもない。把握できたことは目で見た範囲のことと変わらない


「ダメです。なにも……わかりません。ただの、岩場で……」

「ふむ。一応、何度かやってみてくれ」

「わ、わかり、ました」


 そのあとも、ナズナは超音波を発してみた。


「あ」


 三度目の《超音波探知(ドルフィンスキャン)》で、ナズナは中空で止まった。ぱたぱたとその場で羽ばたき、岩場を見る。

 チナミも器用に複雑な傾斜の上で止まり、


「ナズナ?」

「穴が、あります」


 とナズナが告げた。


「でかした、ナズナ」

「やったね、ナズナちゃん」

「すごいぞ、ナズナ」


 順番に、チナミ、リラ、サツキと褒めてくれて、ナズナはくすぐったそうに頬を桃色に染めた。


「は、はい」

「近づいてみよう」


 穴の前までナズナが飛んでくると、チナミもその位置まで飛ぶように跳ねてやってきた。


「人が通れる大きさはある」


 うむ、とサツキはうなずき、参番隊に言った。


「入ってみるぞ」

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