57 『シーズンイベント』
サツキとミナトが参加したいと考えている『ゴールデンバディーズ杯』。
これについて、シンジが教えてくれる。
「『ゴールデンバディーズ杯』はね、三勝すればどのバディでも参加できる手軽さから、参加者が多いダブルバトル部門の大会なんだ。規模が大きい分、参加者の実力差もあるけど、このコロッセオでは一番賑やかで盛り上がる大会でもあるよ。初挑戦する大会にもいいと思う」
「僕もサツキも、コロッセオのことを知ったのも今日なんですが、大会があるなら出ない手はないなって」
「え、今日知ったの!?」
「あはは。レオーネさんとロメオさんが、修業にはうってつけだって教えてくれたんです」
これにはシンジも笑って、
「ははは。そっか。なんだかミナトくんらしいね。すごい行動力だ」
「俺もミナトの行動力には振り回されることもありますが、おかげでいろんな場所に行けるのでおもしろいです」
とサツキも苦笑した。
「あ、じゃあこれは知ってるかな? その『ゴールデンバディーズ杯』、史上初めて無敗でバトルマスターの座にのぼり詰めたレオーネさんとロメオさんの偉業を讃えて、ゴールデンバディと言われる二人の名前を冠して創設されたんだよ」
「そうだったんですか」
「そんなにすごい人だったのかあ」
感心しているサツキとミナトに、シンジはもうちょっと教えてくれる。
「大会に優勝すれば、豪華賞品のほかに、レオーネさんとロメオさんに挑戦する権利が与えられる。五十勝をしなくても、ここで勝てればバトルマスターの座も交代されるのさ。まあ、まだ何年も経っていない大会だし、勝てたコンビもいないんだけどね」
ミナトがニコニコしながら、
「いなせだねえ。お二人とも戦えるのか。大会中だけでも何試合かできるし、どれだけ強くなれるかなァ。優勝した上で、レオーネさんとロメオさんにも勝ちたいね、サツキ」
「でも、連戦はキツいだろ」
「いやあ、それくらいじゃないと。大会中に準備運動までやれるんだ」
とミナトが笑う。
シンジが慌てて言った。
「ちょっと待ってっ。大会はトーナメントで勝ち進むほど一日に何試合も戦うんだよ? しかも勝てば勝つほど対戦相手はどんどん強敵になるのに、同じ日にあのレオーネさんとロメオさんと戦うわけないよ」
「確かに。あまりに厳しいですよね」
「僕は早いほうがワクワクするんだけどなァ」
「このままじゃ勝てないと思う。大会中での経験値でもまだまだ足りないぞ。昨日ロメオさんと組み手をやってみた感じだと、俺にはいつ同じレベルで拳を打ち合えるのかの想像もできない」
「大事なのは呼吸を合わせることだって。サツキも昨日より今日のほうがずっと強くなってるじゃないか。サツキの《波動》と僕の剣なら、連携次第だと思う」
「まあ、個人戦じゃないから俺がロメオさんに勝てなくても、二人で勝てればいいわけだし、ミナトの神速ならレオーネさんにカードを使わせることすらさせずに戦えるかもしれないけど……個々のレベルアップが必要なことは確かだぞ」
サツキとミナトがしゃべるのを横で聞きながら、シンジは驚きつつも口元が緩んでしまう。
「や、やっぱりサツキくんとミナトくんはすごいや。勝つ気でいるんだもん。本当に競い合えるようになりそうな気がしてくるよ」
「そのつもりですから。ね、サツキ」
とミナトが言って、サツキはため息をつく。
「もちろんそのつもりだけど、数日でなんとかするつもりもない。でも、シンジさん。レオーネさんとロメオさんとの試合っていつになるんですか?」
「基本的にはいつでもいいんだってさ。次の『ゴールデンバディーズ杯』の二か月前までの好きな日で希望を出して、レオーネさんとロメオさんが承諾すればその日に試合って感じだね。二か月前っていうのも、次の大会直前だと盛り上がらないからってことだと思う」
一応、大会終了後から三か月以内のどこかで試合をしてくれないかと打診があるという噂らしい。
この手のコロッセオの大会は一か月から二か月に一度は開催され、ダブルバトル部門だけとかシングルバトル部門で剣士のみなど、それぞれに条件もあれば、前回チャンピオンなどがいる場合もあるそうで、ほとんどの大会で優勝者はバトルマスターや前回チャンピオンとの特別マッチを行う。その際、基本的には三か月以内が多いということだった。大会の熱気が印象として残っている間に特別マッチをしたい運営サイドの意向であろう。
「たとえば、切り傷が多くて治療に時間もかかる『ソードマスター決定戦』は前回王者との特別マッチまでの期間が空きやすいけど、魔法の使用が禁じられている『ディセーブルコンテスト』はその日のうちに決着がつくんだ」
「ほかに、どんな大会があるんです?」
ミナトが興味津々に目を輝かせる。
「大会の名前を挙げると、武器の使用ができない『拳祭り』や、女戦士だけが参加できる花の『F‐1グランプリ』、各大会のチャンピオンや成績優秀者を集めて開かれる年末の『グランドトーナメント』とか、サンタワインっていう名産ワインが賞品の『サンタ記念』も同じく年末にあって、年始の一大イベント『ニューイヤーフェスティバル』は場外にならず最後まで生き残った魔法戦士がその年の年男って言われるし、物理攻撃禁止の魔術師の祭典『ウィザードリーグ』なんてのもあるよ」
サツキたちが話をしていると。
舞台には、二人の魔法戦士があがってきた。
「来ましたね」
「へえ」
『司会者』クロノが実況する。
「彦斗出娶漁選手&来面地増藻選手です。デメトリオ選手が二十七歳、マッシモ選手が二十歳。このコロッセオで出会った二人は、シングルバトル部門では個性を出せず、ダブルバトル部門に活路を見出し意気投合すると、おもしろいように勝ち星を重ねて、五十勝十七敗という記録でここまでたどり着きました」
デメトリオは背が高く、マッシモは小さい。
スタイリッシュなデメトリオに比べ、マッシモは丸みのある体つきである。顔も面長と丸顔で、まるででこぼこコンビだ。デメトリオはメガネをかけたスーツ姿、マッシモは騎士服と正反対だった。
また、マッシモは背中に剣を差しているが、デメトリオは手にはなにも持っていない。
「ついにここまで来ましたね、マッシモ」
「そうっすね、デメトリオさん」
「あの二人を、王座から引きずり下ろしてやりましょう」
「はいっす!」
クロノが会場の熱気を読み取って、
「みなさん待ちきれないようですね! では、さっそくバトルを始めるとしましょうか! レオーネ選手&ロメオ選手対デメトリオ選手&マッシモ選手の試合を行います!」
その宣言に、コロッセオの盛り上がりはさらにヒートアップした。
「新しい王者は誕生するのでしょうか? それでは本日最後の試合です! レディ、ファイト!」




