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32 『ジャンボリーナイト』

 席につくと、料理が運ばれてきた。

 カチャトーラという、トマトソースの鶏料理である。リボンっぽいパスタの麺が添えられており、これはファルファッレと呼ばれる。カルパッチョのサラダもあり、ピザまで並んでいた。

 ピザのせいで量が多い印象だが、バンジョーが作り方を教わっているうちにたくさん焼いてしまったらしい。

 みんなで「いただきます」と食べ始める。


「グラートさんはやっぱりお料理が上手だなあ」

「おいしいね」


 アキとエミが中心になって、食事中も賑やかだった。

 玄内は黙々と味わっている。


 ――うまい。真っ赤なカチャトーラは、情熱的でおれを熱くさせる。鶏もぷりぷりで、包み込んだ情熱が、噛みつくと弾けるみたいだ。ブラックオリーブがいいアクセントになってる。これが入るだけで、刺激的でスリリングな戦いに変貌するんだよなあ。


 サツキもカチャトーラからカルパッチョ、ピザまですべておいしくいただいた。


「おいしかったです。このファルファッレっていう麺も食べやすいし、ピザは味付けもしっかりしてて、つい食べ過ぎてしまいました」

「サツキ様もお気に召したようでなによりです」


 と、ルーチェは微笑みかけた。

 レオーネとロメオ、アキとエミはお酒も飲んでいた。オシャレなカクテルで、ピンク色をしている。やや赤みがかっていて鮮やかな色味である。


「ピーチの味がすっきりしてていいね!」

「爽やか~! 久しぶりに飲んだよー」


 アキとエミは前にもここで飲んだことがあるらしい。バンジョーも興味を持って「オレもいいっすか」と言って一杯もらった。


「うめえな!」


 ロメオがお酒について説明する。


「ベリーニというお酒です。甘みがあって飲みやすいかと思います」

「口に合ったようでよかったよ。ほかにもおすすめのお酒があるんだ」


 と、レオーネがグラートからグラスを受け取り、それにカードをカチンと鳴らす。

 すると、お酒がグラスの中に出現した。


「どうぞ」

「うおお! すげえ」

「ただの魔法だよ」


 微笑で答えるレオーネに、バンジョーが言った。


「オレンジがグラスに挟んであるぜ! オシャレってやつかよ」

「彼、おもしろい着眼点を持ってるね」


 おかしそうに微笑むレオーネだが、ヒナがずっこけてバンジョーにつっこんだ。


「魔法に驚きなさいよ!」

「どれどれ。味は……うめえ!」


 バンジョーはお酒にはそれほど詳しくないが、それでもおいしいものはわかる。料理を楽しむために少しずつ飲んでいた。

 バンジョーがアキとエミと騒いでいる間、サツキはレオーネとロメオに機械や科学の話を聞かせてほしいと言われた。

 そこで、サツキは思い出す。


「レオーネさん、ロメオさん。実は、まだ言ってないことがありました。今日、ヴァレンさんたちにはお伝えしたのですが、一応、お二人にも知っておいてもらったほうがよいかと思っていることがあります」

「なんだい?」

「ぜひ、聞かせてください」


 レオーネとロメオに言いたかったことは、シンプルである。


「俺は、この世界の人間ではありません。異世界から来ました。信じるかどうかは、お二人次第ですが」

「へえ。なんだか、納得してしまったよ。だから、サツキくんはこんなにおもしろいんだね」

「ワタシも、サツキさんの魅力に裏づけがされた気分だよ」


 と、レオーネとロメオはすぐに信じてくれた。


「興味深い機械の話も別世界のものだからかな?」

「はい。ただ、俺たちもまだ確かめてないことがあります」

「確かめてないこと?」

「この世界は、俺のいた世界と地続きになっているかもしれない、ということです。そしてその場合、俺は空白の一万年より昔の文明を生きていた。玄内先生や海老川博士と話して、そう導き出しました」

「海老川博士というと、あの海老川博士か。すごいね。あの人の本は読んだ。チナミくんの祖父だったかな」

「なにからなにまで、興味が尽きないな。レオーネ」


「ああ」とレオーネがロメオにうなずく。

 ヒナがサツキたちの会話を聞いて、


「さすがチナミちゃんのおじいちゃんだね」


 とチナミに言うと、


「おじいちゃんは、すごいです」


 うれしそうにはにかむ。

 だが、レオーネはヒナにも友好的な微笑みで言った。


「キミのお父さんもすごい人じゃないか。浮橋教授。オレとロメオが初めて読んだ科学の本を記した人だ。今度の裁判、オレたちも応援してるよ」


「期待しています」とロメオも言った。


「あ、ありがとうございます」


 ヒナはさっきのチナミと同じ顔で照れるが、すぐにサツキに顔を向けて、


「サツキ、やってるわよ」

「当然だ」


 もうやるべき研究はしてきたつもりだが、裁判で訴えるという最大の仕事が残っている。ヒナは気合を入れていた。




 食後、デザートも出てきた。


「グラニータでございます」


 シャーベットを入れるようなグラスに入っており、見た目はピンク色のかき氷のようだった。グラートが解説するところでは、


「イストリア風の氷菓子です。つまり、晴和王国のかき氷のようなものですね。レモンやオレンジなどのシロップを砕いたもので、晴和王国のかき氷があとからシロップをかけるのとはその点が異なります。様々なフレーバーがありますが、今回はイチゴをベースにオレンジの風味も加えております」

「地方やその家庭によって粒子の細かさや味付けも異なりますし、朝食にいただく地方もありますが、今回はお食事のあとの口直しになるよう、グラートさんがフレーバーをセレクトしてくださいました」


 と、ルーチェがあとを引き取った。

 アキとエミはちゃんと説明も聞かずにおいしそうに食べている。クコは説明をきちんと聞いてから食べ始めるが、一口が大きくて、頭を押さえて目をぎゅっと閉じる。


「ん~っ!」

「あはは。クコちゃんは一気に食べ過ぎなんだよー」

「頭がキーンとするんだよね! わかるよ」


 この会話を聞いて、サツキは昔を思い出す。

 晴和王国、『(ひかり)(みやこ)(しょう)()(くに)

 世界樹の近くにある(ささ)(くり)(はら)牧場で、アキとエミにもらったかき氷を食べてクコは同じリアクションをしていた。もしかしたらアキとエミのセリフもほとんどいっしょだったかもしれない。

 二人が優しく見守るように笑い、クコも頭の痛みが治まったのか照れたように笑った。


「えへへ。おいしいです」

「うむ。懐かしいな」


 ついサツキがそう言うと、ルーチェが不思議そうに聞いた。


「サツキ様、召し上がったことがあったのですか?」

「いえ。前に、アキさんとエミさんにかき氷をもらって、それをクコと食べたことを思い出したんです」

「ありましたね、そんなこと。あ、わたし、そのときと成長していないような……」


 クコは以前の自分を思い出して恥ずかしそうにほっぺたを両手で押さえるが、アキとエミはビッと親指を立てる。


「日々進化してるよ」

「人間だもんね」


 リラはそれを見てくすりと笑う。


「お姉様の変わらないところもいいところだとリラは思いますよ」


「リラ」と、クコはうれしそうにリラを見やる。

 ルカはそんなクコとリラを眺めていた。

 ナズナとチナミも小さな口にグラニータを運び、少しずつ味わって食べる。


「甘くて、幸せ……」

「うん。甘さは正義」


 ミナトもデザートには目がないようで、おいしそうににこにこしていた。


「二人には同感だねえ。甘い物は世界を平和にするよ」

「これで平和になったら世話ないわよ」


 ヒナは呆れた顔でそんなつっこみを入れるが、ミナトは聞いてなどいなかった。サツキは二人どちらにも同意したい気持ちもあるが、今は別のことを言った。


「ヒナ。このあと、天体観測でもするか」

「う……うんっ」


 急に、ヒナがうれしそうな顔になったようにサツキには見えて、


 ――ヒナは本当に天体観測が好きなんだな。


 と改めて思い知らされたのだった。

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