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15 『同じ空の下』

 晴和王国、武賀(むが)(くに)

 鹿()()()(じょう)の一室に、三人の姉妹は呼ばれていた。

 三姉妹のトレードマークとなっているセーラー服のリボンを揺らし、階段をのぼる。


「また測量して来いっていうんじゃないでしょうね?」


 長女、『(せん)()(がん)(とう)(ごう)()()がぼやく。サホは今年十七歳。背は一六〇センチほどで、長い髪はまっすぐ伸びる。


「サホ姉、リホたち三姉妹は測量艦なんだよ? 測量するのがお仕事に決まってるよ。逆に、サホ姉にそれ以外なにかできることある?」

「末っ子のくせに言いたいことを」

「だって本当のことだもん」


 三女、末っ子は『(こう)(かい)()(とう)(ごう)()()。十二歳。アホ毛が特徴的で、常に北を向いている代物である。背は一五〇センチほど。髪型は活動的な雰囲気のショートヘア。


「二人共、やめようよぉ。トウリ様が呼んでるんだから、わたしたちは期待に応えないと」

「またミホ姉がやる気に」

「あんた、トウリ様が絡むときだけ気合が違うわよね」


 妹と姉も驚き呆れる。

 次女、『(ねむ)(ひめ)(とう)(ごう)()()は十五歳。ゆるくウェーブがかった髪で、性格もおっとりのんびりしている。だが、トウリ絡みのときだけはやる気がある。背は一五二、三センチほど。

 リホが襖越しに声をかける。


「測量艦、ただいま参りました」

「どうぞ。お入りください」


 返事を聞き、


 ――チカマルくんね。


 とサホは声の主を判別する。


 ――つまり、オウシ様とトウリ様とスモモ様とあのちびっ子以外の人間もいるってことだし、場合によってはあの二人のどちらかはいないのかしら。


 ミホが戸を開ける。

 中には、トウリとウメノの姿はなかった。いるのは国主『()(どう)使(つか)い』(たか)()()(おう)()と『(はこ)()(たか)()()栖萌々(すもも)、『(けん)(てい)なる()(しょ)(ともえ)()()(まる)、『(しょう)(ねん)(ぐん)()(おか)(もり)(みつ)()の四人だけだった。


「……」


 あからさまにミホのテンションが下がり、がっかりしていた。


「トウリ様が、いない……なんて……」

「ほら。行くわよミホ」


 サホがせっついて、リホが苦笑いを浮かべる。


「ドンマイ、ミホ姉」


 リホから見ても、オウシとトウリは双子なのに似ていない。もっと言えば、この三兄弟は顔立ちも似ているがそろいもそろって性格が違う。ただ、オウシとトウリは似たところがあるし、オウシとスモモも似ている部分がある。つまりトウリとスモモが特に似ていない。しかし、三人は仲が良いし、気性もさっぱりしたところは近いようにも思うのだ。

 三人が部屋に入る。

 オウシが腕組みしながら言った。


「よく来た。お主ら測量艦にはしばらく国内の踏査を頼む」

「はあ」


 と、ミホは目を白黒させる。わざわざそれを言うためだけに呼び寄せる意味がわからない。

 だが、サホはぴーんときた。


「逆に、国外に行く人たちがいるという意味ですね」

「りゃりゃ。そうじゃ。イストリア王国にでも行こうと思ってる」

「つまり、オウシ様が?」


 サホの問いには、側近の少年チカマルが答える。


「そうです。一軍艦が向かいます。ただ、トウリ様とウメノ様は晴和王国に留まることになります」

「わたしが運ぶってわけ。ほら、わたし『運び屋』だから」


 スモモが楽しげに付け加える。

 チカマルは年もウメノと同じで、リホよりも下なのに、その佇まいは落ち着いたものである。熟練の秘書のような安心感さえある。

 続いて、メガネをかけた書生風の少年ミツキが口を開いた。


「期間はどれほどになるかわかりません。ルーリア海の国々との貿易の成果次第でしょう」


 (おか)(もり)(みつ)()は、年は十七歳。背は一六五センチ。いかにも聡明そうな顔立ちをしている。感情も表に見えない。作られたようににこやかなチカマルとは逆といっていい。この若さでオウシの参謀を担うだけあって、ミツキは雰囲気からして理知的だった。

 オウシが言う。


「留守の間、トウリが国内のことを見る。お主らは近場の踏査をするだけでいい」

「わかりました。では、アタシたちはトウリ様の補佐をすればよろしいので」

「がんばります!」


 急に、ミホがやる気になった。


「で、あるか。よし。任せたぞ。先に言っておくとな」

「はい」


 とサホが目を光らせる。任務が来るか、とすぐに察する。


「場合によっては、わしらが戻ってきたら、入れ替わりに測量艦がまた海に出ることになるぞ。トウリとウメノも連れてな。シャルーヌ王国にも用があるが、時期がややずれるのじゃ」

「たぶん、またわたしが出動すると思うよ。運んであげる」


 と、スモモが髪の毛先をいじりながら言う。

 ミホがいつもの眠たげな目をぱちっと見開き、キリッと返事をした。


「はい。トウリ様とシャルーヌ王国へ行ってまいります」

「で、あるか」


 りゃりゃ、とオウシは笑っている。だが、リホが小声で「ミホ姉、気が早い」とつっこむ。

 サホがスモモを見てからオウシに言った。


「やっぱりスモモ様の魔法は便利ですよね。こうした遠征には不可欠といっていい。しかし、この晴和王国も新戦国の世、武賀ノ国の周囲も敵は油断ならない。他国への間者としてスモモ様に嫁いでもらえば、天下統一の事業もかなり有利になると思いますが」

「スモモは嫁になどやらん」


 一刀両断、オウシはすぐにその意見を斬り捨てた。


「なんだかんだシスコンよね」


 と、サホが呆れたようにつぶやく。

 実際、オウシはそんなサホのつぶやきなど聞いておらず、スモモの魔法について考えていた。


 ――スモモの魔法は、内においてこそ活かせる。特に、今のわしらにはな。わしとトウリは別々に動くことも多い。《波動》で居場所を察することはできても、連絡を密にするにはスモモの存在が必須。各艦隊への連絡網としてもなくてはならぬ存在。手元にいてもらわねば困るのじゃ。


 それに対してスモモはあっけらかんとしたもので、


「まあ、嫁ぎたい先なんてないから、まだ結婚はいいけどね。あ、でも、王都少年歌劇団『東組』から求婚されたら迷っちゃう」

「うわ、ミーハー……」


 半分冗談のスモモだが、サホは本気で引いている。

 オウシはそれ以上に呆れて言った。


「それこそなんの意味もないわ。相手がスサノオでさえ許すかわからんぞ、わしは。いや、許さん。トウリくらいの人間の元でないとな。まあ、トウリほどの存在はこの世にいるわけないが」

「結局、オウシ様ってスサノオさんを認めてるんだかただのシスコンかわかんないわ。てか、トウリ様ならいいとか意味不明なんですけど」


 シスコンどころかブラコンでもあるわね、とサホは理解に苦しむ。どこをどうこじらせたらそうなるのかと思う。実際、こじれているのは会話の筋でしかないのだが、やれやれと腕を広げるサホを横に押しのけて、ミホが質問する。


「そういえば、トウリ様は今、どちらにいるのでしょうか」

「おお、そうか。お主らは知らんのか。トウリは剣士探しをしている。見つかるかはわからん。だが、ほんのわずかでも可能性があるならば行ってみないとな。それだけの価値があるやつじゃ、あいつは」

「そんなにすごい剣士なんですか。どんな人だろう」


 リホはあれこれ想像するが、オウシは楽しそうな顔で笑うのみである。代わりにチカマルが言った。


「ミツキ様も会ったことはありませんし、知っているのはオウシ様とスモモ様の他にはボクだけですね。そのお方は、オウシ様の同門です。ボクも一時期共に学びました。年はオウシ様やスモモ様よりもボクのほうが近いのですが、ボクもあまりいっしょに過ごさぬうちに旅に出られました。仮にも天下五剣を持ち、その剣に劣らぬ実力を備えています。兄が言うには、天下最速の剣を使うとのことです」

「ほう。コジロウがそんなことを言っていたか」

「はい」

「へえ。コジロウくんにそこまで言わせるなんて、さすがミナトくんじゃん」


 オウシとスモモ、そしてチカマルの三人からの評を聞いても、三姉妹にはその剣士のイメージが浮かばず、ぽかんとするしかなかった。

 オウシは窓の外を見やる。


「トウリのやつ、会えたかどうか……。いや……あいつにはいずれ必ず会う。同じ空の下にいるんじゃ。いずれ……」

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