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27 『呼-子-庫 ~ Call Out A Name ~』

 キミヨシは目を閉じていた。

 声が聞こえる。


「(キミヨシさん。金竜さんの魔法がわかりました。やはりあのひょうたんは武器のようです。名前を呼んだ者を吸い込みます。ただ、返事をしなければよいようです。私は今、計画通り動いています。もう少しで予定のポイントにつきます。わかりましたね。では、もう一度繰り返します。……)」


(きん)()()》の効果で、仙晶(せんしょう)(ほう)()から一方的にしゃべりかけられるのである。しかし繰り返しの説明は聞かずに目を上げた。


「リラちゃん。来ただなもね」

「すみません。遅くなりました」

「全然いいだなも。それより、我が輩の『子』はうまく戦えていただなも?」

「はい。互角の模様でした」

「ふうむ。じゃあ本物の伸び縮みする《(にょ)()(ぼう)》はこっちにあるし、そう長くはないかもしれないだなもね。さて、それはともかく。リラちゃん、いよいよ出番だなも。あれを出してちょうだいね」

「はい」


 リラは、キミヨシが《(たい)(よう)()》によって作った『子』が銀竜と戦っている隙に戦線から離脱し、少し離れた場所に隠れていた『親』つまり本体の元へ走り、合流したのである。

 仙晶法師の魔法道具《(きん)()()》は、『親』のキミヨシのものにしか効果がないため、銀竜と戦っている『子』は状況が伝えられていない。

 そして、リラは《()()()(ほん)》を開いた。

 この一分後、仙晶法師がやってきた。


「キミヨシさん、リラさん。準備はできましたね」

「はい」

「任せてもらいたいだなも」


 これより、三人は作戦を決行する。




 三人が茂みに隠れ、たった十数秒のラグで金竜はやってきた。


「どこや! 出てこいや!」


 息を潜める三人だが、金竜はまた突然、大声を出した。


「て、見えてるやないか! おい、仙晶法師!」


 仙晶法師は姿を見せ、小さいひょうたんを手にした。


「金竜さん」

「……」

「……」

「……」

「……」

「これ、終わらへんな……」


 金竜は呆れたようにつぶやく。


「そろそろいいでしょう」

「せやなぁ。いつまでこうしててもなあ。て、そんなわけにはいかんやろ!」


 仙晶法師の言葉に相槌を打ちながら、その意味がわからない金竜。


「こちらの話です。おいでなさい、トオルさん」


 すると、金竜の持っているひょうたんに穴が空いて、トオルと豚白白(とんぱいぱい)が出てきた。


「なんで? どうやって出てきたん? 出たらあかんよ?」


 金竜が呆気に取られる。


「《月牙移植鏝(こいつ)》で穴を開けさせてもらったぜ」


 トオルの《月牙移植鏝(ジョイントスコップ)》は、厚さ一メートル以内ならあらゆるものに穴を開けることができる。固さは関係ない。


「よかっただっちゃ。もう外に出られないと思ったっちゃ」

「もう! はじめから出られたんやないか!」


 金竜はつっこんで視線を仙晶法師から外すと、別の人物が隠れているのが見えた。少女の背中である。


「て、そっちにもおるやん!」

「っ」


 リラは茂みから姿を現すと、肩越しに金竜を一瞥し、そのまま駆け出した。


「待てや! おい、リラ!」


 返事はせず、リラは駆ける。

 すると、その先にキミヨシがいた。リラがキミヨシの前で足を止める。背中を向けたまま、ちらっと金竜を見やる。

 キミヨシが金竜に言った。


「こっちは我が輩の勝ちだっただなもよ」

「マジか! いや、嘘や! 銀竜がこんなちんちくりんに負けるはずあらへんもん!」

「こうなったからには相談だなも。ねえ、金竜さん」

「なんや」

「ダメぇぇえええー!」


 全力疾走で駆けつけてきた銀竜が叫ぶが、時すでに遅し。キミヨシはニヤリと笑ってひょうたんを見せる。


「しまったぁああ! こんなん嘘やぁあああ! アイヤァァァァー!」


 金竜はキミヨシの持つひょうたんの中へと吸い込まれてしまった。

 その様子を見届けた銀竜は、膝をついた。


「金竜姉さん……」

「やあやあやあ、実はあなたが戦っていたのは我が輩の『子』、つまり分身だっただなも」

「わかってるわよ。だって、胸を突き刺したら煙のようにボッと消えるんだもの」

「『親』、すなわち本体の我が輩はこうして隠れて時を待っていた。ひょうたんを持っていたのはリラちゃんだったが、我が輩は金竜さんの名前を呼ぶ瞬間にリラちゃんから受け取ったんだなも。あたかも銀竜さんを倒してきたようなフリをして。だから簡単に返事をしてくれただなもねえ」


 うなだれている銀竜に、仙晶法師が言った。


「あなたの魔法はなんです?」

「もういいわ。全部教えてあげる。金竜姉さんがいなくなったら意味ないもの。アタイの魔法は、《(よう)(かい)(ひょう)(たん)()(まい)》。ひょうたんに入れた物を溶かす魔法よ。金竜姉さんがひょうたんに人間を入れたら、そのひょうたんを受け取って中にいる人間を溶かすのがいつもの手よ。それでお仕舞いってわけ」

「そうですか」


 銀竜は座る。


「でも、なんでひょうたんが二つもあるの? 一つはあなたが作っていたからわかるけど」

「ああ、仙晶法師さんが持ってたのはレプリカだからだ」

「リラちゃんの魔法で作っておいただなも。それを、仙晶さまの作ったひょうたんと取り替えっこした。トオルの案だなもよ」


 と、トオルとキミヨシが言った。


「なるほど。すべて計算ずくだったってことね。すっかり騙されたわ。特に豚白白、あなたの演技は見事だったわ」

「え、おいらは……」

「やあやあやあ、さすがの名役者だっただなもね」


 と、キミヨシは豚白白のお腹を撫で回す。

 リラが仙晶法師に聞いた。


「銀竜さんをどうなさるのですか?」

「殺生は避けたいところ。彼女もひょうたんに閉じ込めて金竜さんといっしょにするのもいいでしょう」


 豚白白がおずおずと申し出る。


「あの、おいらが言えた義理ではないけど……」


 すかさずキミヨシは腕組みしてうなずくが、豚白白は言葉を続ける。


「助けてあげたらどうだっちゃ?」

「豚白白さんは優しいのですね」


 リラが微笑みかけると、豚白白は頭をかいて、


「いやあ。まあ、ひょうたんを持ってる金竜さんは危険だから閉じ込めたまま首羅王(しゅらおう)の元へ行くとして、銀竜さんはそれまでいっしょに旅をするのも悪くないと思ったんだっちゃ」


 と、銀竜の長い足を見る。


「懲りてないだなも」

「鼻の下を伸ばすな」


 キミヨシとトオルが呆れるが、仙晶法師はしかとうなずいた。


「そうですね。彼女も腕は立つようですが、キミヨシさんとトオルさんと豚白白さんがいれば、裏切られても大丈夫でしょう」

「はい。銀竜さん、よろしくお願いします」


 リラが手を差し伸べるが、すっと豚白白が前に入り、銀竜の手を取った。


「ボクが立たせてあげましょう」

「うわぁ……趣味悪いだなも」


 ため息をつくキミヨシ。

 リラとトオルと仙晶法師は笑った。

 一行はこのあと、『(よう)(かい)(だい)(おう)』首羅王との最後の戦いを迎えることになる。

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