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37 『定数ワームギア』

 浦浜。

 夜。

 無事にヒナの乗船券を入手した士衛組一行は、食事処に入った。

 大衆食堂の雰囲気だが個室がいくつもあり、店内が広い。新鮮な海の幸をたくさん仕入れており、海鮮料理が食べられる店である。

 九人は座敷に上がった。

 注文を済ませると、ヒナが聞いた。


「『()(えい)(ぐみ)』っていうのね、この組織は。悪くないじゃない。ところで、なんでこの中だと下から数えたほうが早い年下のサツキが仕切ってるの? ふつう、玄内さんとかバンジョーがリーダーでしょ?」

「まあ、この一団がクコの国を取り戻すためのものだからな。その中心人物にあたる俺かクコがリーダーになるのがいいだろうってことで俺になった」

「サツキ様はみなさんの推薦で選ばれたんです」


 ふふん、とクコが鼻を鳴らした。


「まあ、当然ね」


 と、ルカも澄ました顔でうなずく。


「なんでこの二人が得意そうなのよ……」


 ジト目で軽いつっこみだけして、ヒナは再びサツキに聞いた。


「ほかに副リーダーとかは決まってなさそうよね?」

「そうだな。まだ決定はしていないな」


 一応、サツキの中では副長がクコと決めているが、みんなには言っていない。クコとルカに構想を少し話した程度だ。ただし、玄内にはいろいろと相談もしている。

 ルカは言った。


「でも、リラも入れたらもう十人。細かな隊編成はあとでもいいけど、副長と参謀役くらいは決めていいんじゃない?」


 ちょっと頬が赤いルカである。チラとサツキを見た。


 ――これで私が正式に参謀役の総長になれば、常にサツキといっしょ……。


 というのが思惑だった。今でも言われなくてもサツキの側にいるが、ルカとしては重みが違う。愛は重たいほうが好きなのである。相手にあげるのも自分が受け取るのも、重ければ重いほどいい。

 ヒナが手をあげた。


「はいっ! じゃあ、あたしがなってあげよっか? 副リーダーに」


 それに対し、サツキは冷静に答えた。


「乗り気で楽しそうなところ悪いが、それはクコだ。ちなみに、リーダーは局長、副リーダーは副長とする。あとは隊編成して各隊に隊長を置き、密偵なんかをする監察、局長の参謀役となる総長を考えている」


 クコは礼儀正しくみんなにお辞儀をする。


「士衛組副長になりましたクコです。みなさんよろしくお願いいたします。頑張らせていただきます!」

「今ほかに決めるのは、監察と総長だけにしよう。監察は、フウサイ。頼めるかね?」


 確認するまでもなく、すでにフウサイはそのようなことをやってくれている。普段から周りに気を配り敵がいないか注意し、サツキの護衛もやっていた。今日だって浦浜を歩いているときもそうだった。

 フウサイは当然、応じた。


「御意。むろんでござる」

「頼む」


 サツキも頭を下げる。


「そして、総長だけど……」


 きた、とルカは冷静な顔をしながら内心期待している。

 ヒナのことはまったく見ていないが、サツキにはヒナから期待の眼差しを向けられていることが察せられた。無視して言う。


「これはルカにやってほしい。総長は、参謀役と言ったけど、(ゆう)(ひつ)――つまり秘書も兼ねる。それに指揮権は持たないから、常に俺の横で全体の状況を見ながら組織の頭脳になってもらう。ルカ、やってくれるかね?」

「構わないわ」


 頼られてうれしいが、それは顔に出さずにクールに答える。それに対してヒナはおもしろくなさそうだった。


「あたしもなんかやりたいのにぃ……」

「まあ、きっちり働いてもらうさ」


 店内がどんどん混み合ってきたところで、店員のお姉さんがやってきた。


「すみません。相席よろしいでしょうか。二名様なんですが……」

「大丈夫ですよ」


 と、クコが答える。

 大事な話は終わったところだし、聞かれて困ることを話す予定もない。

 ありがとうございますと言って店員が客を二人連れてきた。


「申し訳ありませんがこちらの――」


 しゃべっている店員の声に割り込み、その客二人が声を上げた。


「あ! サツキくん!」

「クコちゃんだ!」


 アキとエミだった。二人はずかずかと向かい合わせにテーブルの真ん中の席に座り、みんなが少しずれて端に寄る。


「え? みんないるじゃないか」

「お? ヒナちゃんまでいるね」

「げっ」

「お帰りになったんですね」


 ヒナは何度か会ったことのあるやけにフレンドリーな二人を見て声を漏らし、この日ずっと二人と行動していたクコは笑顔になる。


「うん、宿にも寄って予約だけしてきたんだ」

「だから今日は同じ宿だよ」

「て、ちょっと! 服がボロボロだよ! 八重桜で直そう!」

「そうだね! 二人共服脱いで!」


 アキとエミが心配してサツキとヒナの服を脱がそうとするが、ヒナがバタバタしながら、


「なにすんのよ! あたしはクコから魔法道具を借りてそれで直すからいいの!」

「俺もこのあと宿に戻ってからにします。ここで脱いでもほこりが立って迷惑かけます」


 そんなサツキの冷静な説明に、アキとエミはホッとした顔になる。ルカもこの二人には慣れたもので、


「私の作った《(ばん)(そう)(こう)》で傷口もすぐに治ります。安心してください」

「そっか!」

「よかったあ」


 やっと落ち着いた二人に、サツキが聞いた。


「そういえば、クコとは途中までいっしょだったんですよね?」

「そうだよ。クコちゃんが約束の時間だからって先に帰ったんだよね」

「で、アタシたちはあのあとも『こども森林公園』でずっと走り回ってたんだ」


 元気な人たちだな、とサツキは感心する。

 店員のお姉さんは「失礼します」と小声で挨拶していそいそと下がっていき、アキとエミはそれにも気づかずしゃべる。


「クコちゃん、ごめんよ」

「結局ミナトくんは来なかったんだよ」


 残念そうにする二人の顔を見て、クコは気づく。


 ――ミナトさんを待つためでもあったんですね。修業もしながら、約束のために待ち続けるなんて、頭が上がりません。


 ぺこりと頭を下げるクコに、ヒナがジト目で、


「なにしてんの」


 とつっこむ。


「ハヤカワさんも言ってたけど、あとは縁だからね!」

「縁に期待しよーう」


 アキとエミが賑やかにそう言って、クコが慌てて言った。


「そ、そうです。ミナトさんは同じ船に乗れることになったそうですよ」

「そうなの? やったー!」

「わーい!」


 自分のことのように喜ぶアキとエミである。

 そのあとは、食事が運ばれ、みんなで楽しく時を過ごした。

 食後、宿に戻る道すがら。

 ヒナはすでにほかの宿を取っていたので、この日はここで別れて、集合は明日の朝八時ということになった。

 場所は浦浜港。

 士衛組の九人とアキとエミが乗る船の出航時間が九時だから、朝食はヒナとは別になる。


「おやすみ。みんなちゃんと寝坊せずに来なさいよー」


 と、ヒナはさっと手を振る。


「もし遅かったら起こしに行くからね!」

「ごきげんよーう!」


 アキとエミが手を振り、みんなでヒナを見送った。

 サツキはみんなに呼びかける。


「さあ。俺たちも宿に行きましょう」

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