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39 『基礎的な動作』

 フウサイは玄内に言われたことを思いだし、サツキとミナトに告げる。


「拙者は、なにもかも忘れて強くなることだけ考えさせろと言われているでござる。二人を強くするためにとことん修行をつけるゆえ、そのつもりでいるように」

「うむ」

「わかりました」


 二人の返事を聞き、フウサイはうなずく。


「改めて。忍術の秘伝書『(ふう)(えん)(にん)()』を体得してゆくでござる。特に、歩法・走法をはじめとした体術は必須でござる」

「まずはそこからか。お願いします」


 やる気満々のミナト。

 フウサイはばっと巻物を広げた。


(とび)(がくれ)の忍者が使う歩法を、『(あし)(なみ)(じゅう)(いち)()(じょう)』というでござる。それぞれを、《(ぬき)(あし)》、《(すり)(あし)》、《(しめ)(あし)》、《(とび)(あし)》、《(へん)(そく)(おん)》、《(おお)(あし)》、《()(あし)》、《(きざみ)(あし)》、《(はしり)(あし)》、《(つね)(あし)》、《(かぜ)(あし)》という」

「拾壱箇条もあるんですねえ」

「《(ぬき)(あし)》や《(すり)(あし)》は俺も聞いたことはあるが、そんなにあるとはな」


 二人の反応には感情を見せず、フウサイは続ける。


「静かに歩き出す動作を《(ぬき)(あし)》。これは脚を身体に引きつけるように太ももから持ち上げるのでござるが、動作は大きくなる反面、障害物を回避するためには必要な動きでござる」

 フウサイはそう言って脚を持ち上げる。

「真似してやってみるござる」

「はい」


 と、二人は返事をした。


「このとき、神経をすべて脚を持ち上げることに集中するでござる。忍びの動きは、すべてが一つ一つ身体の隅々まで感じることが肝要。動作そのものに集中するでござる。するのござる」

「脚を持ち上げるときには、ただそれだけに集中。下ろすときにはそれに集中。足が地面に触れる感触とか、身体感覚に意識を向ける。そういうことかね?」


 サツキの言葉に、フウサイはこくりとうなずいた。


「いかにも。ただそれに集中。ひらすたら意識を向ける。今に集中して全部の意識を向けることこそが極意であり、そこからすべてが始まるのでござる」

「なるほどねえ。サツキはいつも余計なことを考えるところがあるから、いい修行になるよ」


 ミナトにそう言われると、事実であるだけにサツキは返す言葉が見つからない。


「それで、下ろすときはどうするんだ?」

「サツキ殿とミナト殿は、『抜き足差し足忍び足』、という言葉を聞いたことがあるでござるか?」

「うむ」

「あります」

「あれは、《(ぬき)(あし)》から始まる基本動作のことでござる。差し足とはすなわち、地面に足を着けること。忍び足は踏み出すこと」

「へえ。よく泥棒の動作なんかに例えられるけど、そいつは不名誉なものですね」


 と、ミナトが片足立ちのまま言った。

 サツキはそろそろ足を着けたくて、フウサイに聞く。


「このとき、どうやって足を着けたら」

「サツキ殿」

「う、うむ?」


 フウサイに見つめられ、サツキはなんと言われるのか言葉を待つ。


「もうしばし、その体勢のまま待つでござる」

「え」

「あはは」


 クールに驚くサツキの顔を見て、ミナトはおかしそうに笑った。


「もしかして、片足立ちがキツくなったのかい?」

「そんなわけないだろ」


 まだ始まって二分しか経っていない。


「たった二分じゃないか」


 口ではそう言っても、本当はちょっとキツかった。

 体幹を鍛える修行として、片足立ちがある。

 しかしあれとは違って、重心が前にあるのだ。

 サツキの《()(いろ)()(がん)》は、魔力の流れだけじゃなく、重心や筋肉の動きまで見ることができる。

 それだけの目を持っているサツキだから、フウサイが重心を前にしているのはハッキリ見て取れるし、ミナトも感覚で見たままそれを再現しているのもわかっている。

 知らん顔で自分だけ楽な体勢で片足立ちすることなどできなかった。


「足を地面に着ける動作をどれだけ丁寧にできるか。それはこの《(ぬき)(あし)》にかかっているのでござる」

「具体的に、どれくらいこれができるといいのだろうか」


 サツキがまたフウサイに質問する。


「まずは五分」

「五分!?」


 ミナトはニヤリとしてサツキに目をくれて、


「そう焦るなよ。時間はあるんだ。差し足忍び足ってのも急がなくても教えてくれるさ」

「ミナト殿の言うように、その心配はないでござる。サツキ殿、無駄な力は抜くでござる」

「はい」


 ニヤニヤとサツキを見るミナトには、


「ミナト殿、自身の身体感覚のみに集中するでござる」

「はい」


 と、二人は片足立ちをさせられるのだった。

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