28 『不可解な消失』
アルブレア王国騎士二人は、馬車を追っていた。
「距離は少しずつ近づいてる! 次のカーブを曲がったらまたスピードアップだ!」
「はい!」
彼らは上司と部下に当たる。
上司は三十代半ばで、部下は二十歳そこそこである。
二人はカーブを曲がる。
しかし。
足を止めてしまった。
「いない!?」
「どういうことだ……」
さっきまで先を走っていた馬車が消えている。
カーブの影響で姿が見えなかったこの少しの間に、馬車はパッタリと姿を消してしまった。
「まだ次のカーブは距離がある……いや、しばらくカーブなんてないはずだ」
「な、なにが起こったんでしょう?」
「考えられるのは、馬車が茂みに入って隠れたってことくらいだ」
「そうですよね」
「じゃなければ、魔法でなにかをした」
「……」
魔法。
そう言われると、可能性が無限大で推理のしようがない。
「クソ! 偵察に行った部下の話を聞く限り、あいつらの馬車はもうない。つまり、あの馬車がそうだったとしか考えられない。まんまと切り抜けられちまったってわけだ」
「乗ってたのは別人だったのに……変装をしたんでしょうか?」
「そうかもしれないし、それも魔法だったのかもしれない。人数も少なかったしな。幻惑魔法の類いか、それとも……チッ! 考えても仕方ない! まずはこの近辺を探すぞ!」
「はい! 他のみなさんもこのあと馬車で来ますし、徹底的に捜索しましょう!」
これに対して、もう上司のほうは「ああ」とは答えなかった。
――ちくしょう! 士衛組め……! 今度裁判をやる浮橋朝陽の娘、浮橋陽奈は耳が良いって話だった。そのせいで気づかれて、あのわずかな時間で対応策を打たれたってところか。
そのとき。
部下の騎士が、ふと空を見上げる。
「あれは……なんか、ある……?」
まばたきして、小さく首をかしげた。
「勘違いか。さあ、茂みを探すぞ!」
馬車は空中を駆ける。
まるでを空を走っているように馬車は宙にあり、レスコが魔法《秘密ノ小道》で敷いた透明の道を突き進む。
バンジョーの愛馬・スペシャルが走りやすいようにアーチを描くように傾斜を上って行くため、元いた道とは高低差がどんどんついていく。
ヒナが窓から顔を出すと、チナミもいっしょに窓から顔を出して元いた道を見下ろした。
「これならあいつらも手出しはできないわね!」
「はい。追いつくことは不可能です」
「ふふん。諦めて茂みを探すって言ってるし、あたしたちの勝ちね」
「隠れたと思うのが自然ですし、うまくいったみたいです」
気になったナズナも顔を出して眺める。チナミとはほっぺたをくっつけるようにして並んで峠を見下ろした。
「ほんとだね。馬車が小さくなってるから、見つからないかな?」
「たぶん。一応ちょっとした細工もしたから大丈夫だと思う。距離もどんどん離れてるしね」
ナズナがリラを振り返り、にこりとする。
「リラちゃんのおかげだね」




