18 『ランダムな抽選会』
クコはルチーノの魔法《仮面抽選会》によって別人になった。
見た目と声が別人のものに変わったように見えるが、実際には他者からそう見えるだけであり、本当に顔や身体のつくりが変わったわけではない。
しかし、変わったようにしか見えなかった。
チナミがクコを見上げる。
「大人のお姉さんになりました」
「背が高くて、どことなく、クコちゃんの……お母さんに、似てる」
ナズナはクコの母を知っているので、そんな感想が出た。リラもうなずき同意する。
「そうだね。なんだか似てる」
長い黒髪、背が高く、三十代のお姉さんといった感じである。
衣服は晴和王国でよく着られるようなもの着物だ。
クコとリラの母・ヒナギクは晴和王国の出身で、長くて綺麗な黒髪を持ち、年齢は三十九歳。
条件としてはまさにぴったりだが、ちょっと違う。
ヒナギクとは別の人だった。
クコは念じた条件を打ち明けた。
「わたし、長くて綺麗な黒髪で、身長は一六五センチほど、三十代で、品のある女性、という条件を念じました。お母様をイメージしたのですが、惜しかったみたいですね。あの、一度戻してもらってよろしいですか?」
「わかりました」
ルチーノはクコの頬に人差し指と中指の二本指で触れた。
すると、クコが元に戻った。
ミナトが楽しそうに、
「おお、戻った」
「お姉様はこうでないと。なんだか安心する」
リラはちょっと落ち着かなかったから、いつものクコに安堵した。
それから、ヒナがずいと身を乗り出すようにして、
「ちょっと! あたし、やってみていいかしら? お試しで」
「どうぞ」
「やった」
「《仮面抽選会》。お好きな条件をどうぞ。どんな条件でも構いません。三つ以上念じたら、別の人間に見えます」
「わかったわ」
魔法を唱える際の口上は決まったものらしく、さっきクコに使ったときと寸分も違わない。
――理想のあたしの姿をサツキに見せてあげるんだから! まず、背が今より少し高くて、スタイルも今より少しナイスバディで、ええっと、あとは、今よりももう少し鼻が高い美少女! 年は同じくらい……いや、一つか二つ年上かしらね。髪型はなんでもいいけど、明るくて華やかで品がある感じで! よし!
ヒナが念じて、
「どう?」
と肩にかかる髪を得意げに払った。
指に触れた感じ、髪は長くなっている。
絹のようにサラサラだ。
なんだか美女になったような気分になり、ヒナはどや顔になっていた。
しかし、みんなの反応がいまいちなのである。
「な、なによ? 失敗した?」
本当は理想のあたしを見てもらいたかったんだけど……、とみんなに聞こえない声でごにょにょ言いつつ、ヒナは不安になってきた。
「そっかあ! 気持ちはわかるデショ!」
だれにも聞こえていないと思っていたヒナの声を、バローロがしっかり聞いていた。耳が大きいおかげか、聴覚は優れているらしい。
ヒナがみんなをよく見ると、なぜかそろいもそろってクコと交互に見比べている。
「ど、ど、どうしたの? クコより、美少女?」
少しどもったように声を震わせて挑戦的に聞くと、チナミが最初に言った。
「クコさんが、二人になりました」
「つ、つまり、あたし、クコになっちゃった!?」
ヒナは唖然とした。
――だからこいつ、気持ちはわかるデショとか言い出したの!?
バローロをにらむと、目と目が合った。
「わーお! パラダイスデショ!」
言うが早いかバローロがぐいっとヒナの隣に寄ってきて、
「近っ」
とヒナが一歩後ずさる。
「あらまあ」
「お姉様、あれはヒナさんですよ」
呆気に取られるクコに、一応リラが説明してやった。
「そ、そうですよね。驚きました」
ミナトはニコニコと、
「愉快だなあ。いったいどんな条件を出したんだい?」
「どうせ、中途半端に理想を念じたらたまたま条件に一致したのがクコだった、とかでしょう」
と、ルカは笑った。
「な、なんで……?」
ナズナが驚きと疑問が混じった声を出すと、ヒナが叫んだ。
「なんではあたしのセリフよぉー!」




