17 『幻惑的な仮面』
ルチーノの提案。
それはサツキも予想できることだった。
「はい。ルチーノさん、なんでしょう?」
クコが促すと、ルチーノは小さくうなずいた。
「ぼくとレスコが調べたところでは、アルブレア王国騎士が十人ほど、道の端の茂みに潜んでいます」
舗装されて道という道にはなっているが、両脇は木々が茂っている。
隠れる場所ならいくらでもあるのだ。
「そんな彼らと戦うのは簡単ではありません。しかし、引き返して大きな道に出るのもリスクです。あちらのほうが敵は多い。そこで、戦いを避けつつと通り抜けるために、ぼくの魔法を使います」
「やはり、ルチーノさんの魔法ですか」
思っていた通り、ルチーノが魔法を披露してくれるらしい。
サツキはずっとルチーノの魔法がどのようなものなのか、気になっていたのである。
「ええ。ぼくの魔法、《仮面抽選会》によって別人になってもらうんです」
「バローロさんからは別人に見えるようになるとだけ聞きました」
と、クコが言う。
「そうですね。別人の仮面をつけることができるようになります。ぼくが人差し指で額に触れた相手は、触れられている間、三つ以上のお好きな条件を念じてください。例えば、性別とか、年齢とか、髪の色とか、身長体型とか、出身地とか。そうすると、その条件に合う人間の中からランダムに選ばれた人物の仮面をつけることになる。つまり、他者からは、ランダムに選ばれた人物に見えるようになるということです」
「他人からそう見えるってだけで、本当に姿形が変わったわけじゃない。さらに、声もその人物のものに聞こえるようになる」
レスコが補足して、バローロは指を三本立てる。
「効果時間は三時間。ただし、ルチーノがその人の顔に触れて仮面を解除すれば、三時間しなくても元に戻れるデショ!」
「ちなみに、選ばれる容姿は、この世界中に生存している人間すべて。会ったことがある人に限定されるというようなこともありません」
クコが確認する。
「生存ということは、すでに亡くなった人は対象外ということですね」
「はい。あくまで生きている人だけです。説明は以上になります。いかがでしょう」
「なるほど。わかりました。ルチーノさんの魔法によって俺たちの姿と声を錯覚させ、通り過ぎればよいのですね」
「はい。一度、試してみましょうか」
「お願いします!」
すっかり楽しみになっているクコが答えて、ルチーノが魔法を唱える。
「《仮面抽選会》。お好きな条件をどうぞ。どんな条件でも構いません。三つ以上念じたら、別の人間に見えます」
「わかりました」
丁寧に返事をして、クコが念じる。
その間もルチーノはクコの額に触れたまま、条件が整うのを待つ。
そして、クコが念じ終わった。
「はい! 念じ終わりました。いかがでしょうか」
言ったときには、声は別人のものになっていたし、姿形も変わっていた。
最初に、ヒナが驚嘆の声を上げた。
「か、変わってるわよクコ! 本当に別人になってるー!」




