15 『老夫婦な仲間』
「まさか! デショ!」
バローロは笑った。
「おいらの仲間は、おいらと同い年デショ」
つまり、十四歳。
間違っても老夫婦には見えない。
「ちなみに、性別は?」
「男の子と女の子が一人ずつデショ」
性別は老夫婦と同じにはなる。けれどそれだけだ。
と思ったとき。
「あぁっ!」
大げさに頭を抱えて、バローロが目を見開いた。
「違うデショ!」
「違うってなにが違うのよ。どっちかも男とか女とか、そういう話?」
ヒナが眉を寄せる。
バローロは首を横に振った。
「違うデショ! 性別は合ってるけど、違うのは見た目デショ!」
「どういうことですか? バローロさん」
クコが質問した。
見た目が違うとはどういう意味なのだろうか。
馬車がその老夫婦の近くを通りかかったのは、それからすぐのことだった。
七十代半ばの老夫婦。
二人は道の端に座っている。
徐々に近づいてきて、バローロが窓から顔を出した。
「どうですか?」
クコが尋ねる。
バローロはジッと老夫婦を見て、
「おいらにはわからないデショ」
ヒナがずっこける。
「なによそれ!」
すると、老夫婦は突然軽やかに動き出した。
まるで老人には見えない。
子供のような動きで駆け寄ってくる。
そして、姿が変わった。
曲が転調するように、急に切り替わったのだ。
老夫婦は少年と少女に姿を変えて、馬車へと駆け寄ってくる。
少女が手を振って、
「バローロ!」
「心配したよ」
と少年がホッとした様子で肩の力を抜いた。
「うわぁ! ホントに変わった!」
「これが魔法ですか」
驚くヒナと無表情に感心するチナミ。
クコとリラもこれには感心してしまっていた。
「見事なものです!」
「幻惑魔法としては、不思議な仕掛けですよね」
ナズナがリラの後ろからうなずく。
「うん。自分や他の人の見た目を別の物に見せる、だもんね」
「つまり、見る相手に幻惑魔法をかけて別人に見せかけるのではなく、先に見た目を変える幻術を仕掛けておけば後から見た人がその幻惑にかかる。魔法が作用している対象が違うということ」
と、サツキはまとめた。
「ケイトさんとはタイプが違う。ヴァレンさんとは……どうなんだろうね」
ミナトはそう言った。
壱番隊隊長、誘神湊。
これまで壱番隊は、連堂計人と時之羽恋が隊士として加入したことがある。
しかしケイトはブロッキニオ大臣側のスパイであり、士衛組と過ごすうちに士衛組が悪い人たちじゃないとわかって、板挟みに苦しみ脱走したところをミナトに斬られた。
ヴァレンは今も壱番隊隊士だが、常に士衛組と行動を共にする仲間とは少し異なり、秘密組織『ASTRA』のトップをしながらたまに士衛組に顔見せするといった特殊な交わり方で、『ASTRA』との同盟の側面が強い。
その二人共が、実は幻惑魔法を使う。
それで、壱番隊隊長のミナトはそんなことを言ったのだ。
ケイトについてミナトが触れたがらないのはサツキも知っているので、サツキは余計なことは言わず、魔法についてのみ話す。
「ヴァレンさんの《世界を奪う夢幻投影》は空間一帯を幻術にかける。それに近い部分もありそうだが、おそらく変装術の要素が強い。ルチーノさんの魔法は、個人を変装させる魔法と思っていいのではないか」
「そうね。そのほうがしっくりくるわ」
ルカがサツキの推論に同意した。
そして。
術者はルチーノ。
二人組のうち、少年のほうがそれに当たる。




