14 『別行動なバローロ』
バローロはせわしくなくしゃべり出す。
「そうだったデショ! おいら、あいつらにやられて怪我したんデショ! ああああ、思い出したらなんだかまた身体が痛くなってきたデショ! ク、クコちゃん、おいらの手を握っていてほしいデショ!」
手を伸ばすバローロの手を素直に握ろうとするクコだったが、クコの手首をリラが取って、ルカが目を細める。
「ふざけないでくれる?」
「い、痛みが引いたからもう大丈夫デショ」
ルカににらまれてバローロは手を引っ込めた。
「クコのことはともかく、サツキが聞いているのだからちゃんと答えなさい」
「はいデショ」
「それで、あいつらというのは?」
サツキが促すと、バローロは答える。
「アルブレア王国騎士デショ!」
「こっちのルートにはいないと思いましたが」
チナミがサツキをチラと見る。
「うむ。偵察によれば、別のルートにいるはず」
「こっちにもいるかもしれないデショ! おいらたちは士衛組を安全にシャルーヌ王国へ送り届けるために見に行ったら、やられて……」
「おいらたち?」
一人ではない、ということだ。
サツキが引っかかりを覚えてそう言うと、バローロは「あ!」と声を上げた。
「ここまでの道に、仲間はいなかったデショ?」
「バローロさんのお仲間、ということですか?」
クコが首をかしげる。
「いなかったわね」
ヒナが答えて、バローロが不安そうに、
「二人の仲間がいるデショ。おいらは向こうのルートを確認しに行って、うっかり士衛組の名前を口にして襲われたデショ。仲間の二人はこっちのルートを見に行ったから、おいらこっちまで逃げてたデショ」
「うっかりって、大丈夫なのこの人?」
「ヒナさん、本人の前でその言い方はよくないと思います」
チナミに注意されて、ヒナは苦笑いを浮かべた。
「ご、ごめん。つい」
「私に謝らないでください。相手が違います」
「ごめんなさい、バローロさん。でも、そういうことならどこかで会えますよ」
「デショ! ヘマするのはおいらだけだと思うデショ。だから、二人には会える気がしてきたデショ」
顔を上げたバローロを横目に、ミナトは口元を緩ませる。
「立ち直りが早いのはいいことですね」
そのとき、フウサイの声がサツキの耳に入る。
「サツキ殿。この先五百メートル、老夫婦がいるでござる。さらに一キロ先、十人のアルブレア王国騎士が身を潜めているでござるが」
「やっぱりこっちにも敵はいたデショ! て、うわあああ! 知らない人の声だけ聞こえてきたデショ!」
驚きのけぞるバローロ。
「小声だったのに、結構耳いいのね」
聴覚の優れたヒナには当然聞こえるフウサイの声だが、影に隠れたまま姿を見せないでサツキに報告したため、みんなは気づいていないだろう。
サツキは正直に話す。
「言っていませんでしたね。今、姿を見せずに偵察の報告をしてくれたのが忍びのフウサイです。この場にいなかったので紹介していませんでした」
フウサイのことは基本的に秘密にしている。普段あまり姿を見せないフウサイだから、あえてだれにも教えないのだ。知られずにいたほうがフウサイも動きやすいからである。
この世界では魔法に関する情報は隠すのが常識となっている。魔法情報は知られると命取りになるからだ。サツキたち士衛組にとっては、フウサイの存在そのものが魔法のように重要な武器であるため、存在情報を伏せているというわけだった。
「へええ! 忍びって、晴和王国の忍びデショ? カッコイイデショ!」
サツキはあごに手をやって、
「しかし、敵は一キロ先にいるのに、その手前には老夫婦しかいない。バローロさんの仲間が老夫婦ということはないですよね?」




