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7 『危険な進路』

 サツキがヒナとチナミの二人といっしょに買っておいたレインウェアやグローブ、険しい山道用のストックなど、用意だけで済めばそれに越したことはない。

 そんな事前準備をしてくれた二人は、ナズナといっしょにかるたで遊んでいた。

 三人がしているのは、晴和王国のかるただった。

(あま)()(みや)かるた』と呼ばれる、主に晴和王国の王都・(あま)()(みや)で昔から遊ばれているかるたである。

 ナズナが詠み上げる。


「亀の甲より年の功~」

「とりゃ!」


 タッと、ヒナがかるたを押さえる。


「やったー」

「そっちでしたか」


 チナミはクールな無表情ではあるが、少し悔しそうにつぶやく。ナズナがなぐさめる。


「次は、取れるよ」

「うん。ありがとう」


 一方ヒナは取ったかるたを玄内に見せつけている。


「先生! 取りました!」

「うるせえ、集中できねえ」


 玄内は、亀のかるたを見せられてもチラと一瞥するだけだった。現在、機械工作をしているのである。

 ヒナは玄内の声を聞き、チナミにこそっと教えるように言う。


「先生、うれしいみたい」

「そうは見えませんが」

「でも、ちょっと……やさしい顔……」


 ナズナにはそんな繊細な表情の変化が読み取れたらしい。ヒナにしろナズナにしろ、なぜそう思えるのかチナミにはよくわからなかった。


「よし。ナズナ、続き」

「う、うん。詠むね」

「こーい!」


 ヒナが元気な声を上げ、三人はまたかるたを続ける。

 そのとき。

 外を駆けるフウサイが戻ってきて、サツキに報告する。


「サツキ殿。五キロ先にアルブレア王国の騎士が潜んでいるでござる」

「報告ありがとう、フウサイ。人数はどれくらいだ?」

「ざっと三十人でござる」

「なるほど」


 フウサイは報告をするのみで、迂回を検討するようにだとか戦闘準備をすべきであるとか、余計なことは言わない。サツキの隣にいるルカも、これくらいの判断はサツキがするからなにも言わなかった。


「フウサイ。迂回できたら助かるのだが、どこかで迂回路に入れそうなところはあるか?」

「二キロ先、左手に側道がござる」

「問題は、その道が先にへとつながっているかだな」


 すると、チナミが言った。


「元の道に合流できる可能性はあります。合流点がずっと先になるかもしれませんが、シャルーヌ王国へとつながっているとみていいかと」

「そうなのか、チナミ」

「晴和王国では男坂と女坂に分かれる道があったり、他の国でも一度は分岐してもつながっている道が多いです」

「ふむ」

「舗装された道なら変なことにはなりにくいと思います。ただ、峠を越えたあと、出る場所がかなり南になったりズレが出る心配もありますが」

「よほどの使い手がいない上での三十人なら、戦えるだろう。しかし、土地の利をうまく使って仕掛けてこられたらどうなるかわからない。やはり避けるのが無難か」

「そう思います」


 祖父の海老川博士のフィールドワークに付き添って、チナミはいろんな山を登ってきた。

 そのチナミが曲がっても大丈夫だろうと言うのなら、サツキも信じられる。


「では、左の道に入ろう」

「御意」

「はい」


 フウサイとチナミが返事をして、サツキは馬車の運転席の窓を開けた。


「バンジョー」

「おお、サツキ。どうしたんだ?」

「二キロ先、左手に道がある。その道に入って欲しいんだ」

「わかったぜ!」

「ありがとう」


 基本的に、バンジョーは頭を使うことが苦手で細かい理由は聞いてこない。それもサツキを完全に信用してくれているからでもあった。

 窓を閉じる。

 フウサイがサツキに聞いた。


「サツキ殿。一応、左手の道も進めるだけ進んでいって、偵察したほうがよいでござるか」

「ずっと外を走ってばかりで、その上偵察までしていて、疲れていないか?」

「少しは走らねば身体がなまるゆえ、訓練の一環でござる」


 忍びの者の体力は、常人とはまるで違っているらしい。フウサイが特別にすごいのかもしれないが、馬のスペシャルよりずっと速く走れるからこそ、途中で足を止めて周囲を偵察する余裕もあるのだろう。それでも、フウサイは今朝から偵察を続けていて、そろそろお昼になるというのにほとんど休んでいない。


「フウサイにも休んで欲しいけど……」

「それなら、私が行きます」


 そう申し出たのは、チナミだった。

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