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1 『軽やかな旅』

 イストリア王国、テュリーノ。

 工業都市としてイストリア王国第二位、大きさとしてもイストリア王国第四の都市と言われる。

 碁盤の目状に整備された美しい街並みは、工業都市というよりも建築や芸術の色が強いように思えるだろう。美食も有名なため、観光に訪れる人も多い。

 そしてここは、イストリア王国の主要都市の中でも最西端に位置し、列車の終着点といえる。

 つまり、ここから先へ行くためには、列車から馬車や徒歩の旅に切り替える必要があった。


「西側をシャルーヌ王国と隣接するイストリア王国において、ここからがイストリア王国最後の旅になるわね」


 ヒナはイストリア王国で暮らしていたこともあるため地理にも詳しい。


「買い出しは大事になるな」


 テュリーノは少し多めの買い出しをするにも充分な街だ。さすがはイストリア王国第四の都市といった明るさと活気である。


「次に大きな都市はシャルーヌ王国のリヴィエーヌ。でもその前に、レノーブルがあるわ。そこから列車に乗れるわね」

「ヒナさん、シャルーヌ王国のことも詳しいんですね」


 ぽつりとそう言って、チナミがヒナを見上げる。


「まあねえ。チナミちゃん、このあたりのことならなんでも聞いて」

「いえ。大丈夫です」

「え~」


 チナミがヒナに対して釣れない態度なのはいつものことで、サツキには慣れ親しんだ風景に見える。


「俺とヒナとチナミは、買い出しもちょっとだけで自由な時間もある。行きたいところはあるか?」

「あたしはなんでもいいわよ。公開実験の準備も順調に進んでるしね」


 ヒナの返事を待ってから答えようとしてチナミは、


 ――ヒナさん。やる気があって瞳が輝いてる。公開実験を前に、思い詰めてなくてよかった。


 と安堵する。


 ――こうして楽しそうにしていられるのも、士衛組のみんながいてくれるからですね。


 マノーラの裁判では、危うく負けてしまうところだった。

 裁判官たちが地動説反対派に取り込まれて、研究内容を無視して反対派の利権のために、ヒナたち親子は宗教的な側面からも国家の反逆者になりかけたのだ。

 それをシャルーヌ王国の要人、外務大臣・ディオンが現れて助けてくれた。

 そして、決着を引き延ばして、裁判の結果を公開実験によって決めるよう話をまとめてくれて、現在士衛組は決戦の地・シャルーヌ王国へと向かっているのだった。

 この苦しい状況の中でも、ヒナが前向きにやる気でいられるのも、サツキたち士衛組の存在があってこそだとチナミは思った。

 だから。


「じゃあ」


 チナミはくいっとサツキを見上げた。


「甘い物を食べたいです」

「うむ。いいな、甘い物」

「はい」


 表情は変わらないからわかりにくいが、ちょっと照れたようにうれしさを口の端ににじませるチナミ。


「美食の街でもあるせいか、バンジョーもミナトと食べ歩きしてるっていうし、あたしたちも食べないとよね!」

「はい」


 いつもはチナミも食べ歩き組だが、今はヒナが心配でそばにいたかったのである。


「?」

「……チナミ?」


 トントントン、とチナミが駆け出してガス灯を蹴って高くジャンプした。相変わらずくノ一と思わせる身のこなしだ。

 空中でくるくるっと回ってしゅたっと着地したチナミの手に握られていたのは、新聞だった。


「なに? え……」


 ヒナが新聞を覗き込み、目を丸くした。

 目の良いサツキには、チナミが新聞を握った際に文字が見えたし、チナミも手に取るときに認識できた。

 だが、耳が特別良くても視力と動体視力は並のヒナにはまだ見えていなかったのである。

 ヒナは驚愕する。


「公開実験後に、そのまま裁判!?」

いつも読んでいただきありがとうございます。

今日から新章『シャルーヌ王国編』の始まりです。

ヒナの公開実験がどうなるのか見守ってもらえたら嬉しいです。

新章もよろしくお願いします。

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