幕間紀行 『ヴァレンタインマスク(10)』
カイトとエヴリーヌはヴェリアーノの中心部へ向かって歩いていた。
「それにしても。カイト様?」
「なんです? エヴリーヌさん」
「そんな仮面など買って、どうしますの?」
現在、カイトの手には仮面がある。
目を隠すための顔半分を覆うマスクだ。
「これからボクたちが行くマノーラには、士衛組がいます。サツキさんとミナトさんに会うのが目的ですが、もしかしたら第一王女と第二王女もおられるかもしません」
「そうですわね」
「そんなときでも、これがあれば隠せるでしょう?」
ニコッと微笑むカイトを見て、エヴリーヌは苦笑した。
――可愛い笑顔ですわね、カイト様。人の好い……。それで隠さなくても堂々と会えばよろしいのに。
しかしカイトはそれほど不用心でも無神経でもない。
――きっと、王女姉妹がケイト様のことを思い出して心を痛めることを気にしているのでしょう。ケイト様を粛清した人たちのことなど、気にする必要もないというのに。けれど、厄介な荷物を背負った気になっているキイト様に比べたらずっと良い事ですわ。耳を塞いでやり過ごすのもカイト様らしくありませんしね。
仮面を手に、カイトは楽しそうに言った。
「追加で入った情報によると、サツキさんとミナトさんは今、コロッセオに参加しているそうですね。ボクも参加しようかな」
「ワタクシはまだ手の内を見せたくありませんし、参加は控えさせていただきますわ」
「大丈夫です。シングルバトルに出場しますから」
カイトは仮面を指先でもてあそび、マノーラの方角に顔を向けた。
「サツキさん、ミナトさん。お会いできるのを楽しみにしています。心さえ軽やかなら、あなたたちとの邂逅は良いものになると信じて……」
仮面の店では。
今もアキとエミがジョバンニと話していた。
ジョバンニは愉快そうに言う。
「おまえたちのようなおもしろい人間には久しぶりに会ったよ。せっかくだ、店の仮面、好きなのもってけ」
「カイトさんは買ったんだし、ボクたちも買っていきますよ」
「そうだね。アタシも賛成」
ははは、とジョバンニは笑った。
「わかった。じゃあ、今から仮面を創ってやる。それなら文句ないだろ」
アキとエミは顔を見合わせて、「はい」と答えた。
それから仮面ができるのを待って、完成した仮面を手に二人は店を出たのだった。
仮面を手に、アキは言った。
「ジョバンニさん、魔法は使えないって言ってたけどさ」
「うん、使ってるよね」
エミは同意する。
「トモコさんのお面と違って、心が軽くなるよ」
「心の重さを取ってくれるお面かあ。おもしろいね」
「今度サツキくんが悩んでたらつけてあげようかな」
「そうだね、サツキくんはがんばり屋さんで心が重たくなるときがあるしね」
「反対にミナトくんはいつも軽やかだから必要ないね」
「そうだね、あはは」
「さあ、ボクたちもチョコレートを食べて帰ろう!」
「そうだね!」
カメラをパシャリとして中からチョコレートを取り出すと、二人はひょいと口に入れた。この特製のカメラには、物を自在に収納できるのだ。
「おいしい!」
「甘ーい! 幸せ!」
二人は仮面をお土産にもらって、現在の拠点であるマノーラにあるロマンスジーノ城へと帰るのだった。
その後、マノーラでカイトとエヴリーヌに会うことはできずすれ違うが、アルブレア王国で再会することになる。
そしてそれはまた別のお話である。
いつも読んでいただきありがとうございます。
このお話で今回の幕間は終わりになります。
幕間も少し長くなってしまいましたが、いかがでしたか。
『ストップバイアート』、『ミリングソルト』、『ワームアップ』、『ネイチャースピリット』、『マジックマレット』、そして『ヴァレンタインマスク』と書かせていただき、全部で六つのストーリーになりました。
書きたいことがたくさんあってもっともっと書きたい気持ちもあるのですが、今回はこのへんで本編に戻らせていただき、また次の機会に書かせてもらえたらと思っております。
前にも書きましたように日本の素晴らしい精神性や文化、言い伝えや教えなど、意識する一助になってくれたらうれしいです。
さて。
明日からはシャルーヌ王国編です。
現実世界で言えば、イストリア王国がイタリア、シャルーヌ王国はフランスになります。
ここでは、ヒナたち士衛組による公開実験が行われます。
国王・フィリベールの名前は本編中でも何度か出てきていましたが、ようやくの登場です。また、大臣のディオンや側近のナゼルなども再登場します。
本編から時間が空いてしまいましたが、また丁寧に描いていきますので、ヒナの公開実験と最後の審判を応援していただけるとありがたいです。
お楽しみに。
それでは、明日からもよろしくお願いします。




