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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編集】
1322/1373

幕間紀行 『ヴァレンタインマスク(7)』

 夜になった。

 亡霊が出る時間はいつも深夜だ。

 深夜の零時から二時を過ぎるくらいまでだと言われている。

 そこで、ジョットとヴァレンタインは零時に合わせて、ヴェリアーノの中心のほうへとやってきた。


『毎日のように現れるのですか?』

『一応、そう聞いてる。おれも見たことはないから、すべて噂だけどな』

『でしたら、待ちましょう』

『ああ』


 待ちながら、ヴァレンタインはチョコレートを食べた。


『ヴァレンタインさんはチョコレートが好きなのか?』

『好きというより、チョコレートには浄化作用がありますからね』

『へえ』


 そういえば、夜になるまでの間にも何度かつまんでいたと思い出す。小腹が空いたというわけでもなかったらしい。


『エクソシストは他者の邪気を祓いますが、自分自身も邪気を受けるものです。チョコレートを食べるのは癖のようなものでしょうか』


 しばらくして。

 通りの向こうから声が聞こえた。

 叫び声だった。


『きゃー! 出たー!』


 ついに出た。

 ジョットとヴァレンタインは顔を見合わせた。


『行ってみるか』

『はい』


 二人が声のしたほうへと行ってみると、腰が抜けて座り込んでいる若い女の姿があった。


『おい、大丈夫か?』


 ジョットが駆け寄ると、女は言った。


『出たの! 亡霊が!』

『本当か!?』

『ええ! あたしの目の前を通り過ぎて行ったわ!』

『やっぱりいるのか! 亡霊が!』


 次に、ヴァレンタインが問いを向ける。


『お嬢さん、どのような亡霊でしたか?』

『えっと、女の子の亡霊? だったと思います。噂に聞いてるのといっしょで、小さな女の子……』

『なるほど。ありがとうございます』


 ヴァレンタインは手を差し伸べて、


『立てますか?』

『は、はい。ありがとうございます』


 若い女がヴァレンタインの手を取って立ち上がると。

 二人は移動した。




 まだ近くにいないだろうかと周りを見回しながら、ジョットは聞いた。


『なあ、ヴァレンタインさん。どこに向かってるんだい?』

『帰りに見かけることができたらいいのですが、ただあなたのお店に戻っているのです』

『戻ってる?』

『今日も出たことがわかったのです。あとは、先に戻って確認しなければなりませんので』

『確認って、なにを……』


 ジョットは足を止める。


『い、いた!』


 幸運なことに。

 川の向こうに見える通りを、亡霊が駆け抜けるのが見えた。

 暗くて少しわかりにくいし、小さな子供と言われている大きさなのもあって、確信を持って言えるわけじゃないが。


『おれも見たぞ、ヴァレンタイン』

『見ましたか』

『亡霊だ! 子供の亡霊だ! 確かにあれは、女の子の亡霊だったぜ!』

『では、戻りましょうか』


 スタスタと歩いて行くヴァレンタイン。

 その後を追いかけて、ジョットは問いただす。


『なんで見ただけで帰るんだ? 退治するんだろ? いや……おれとしては、なぜかはわからないが、退治とかしたくないっていうか、変な気持ちなんだが』


 言いながらジョットは自分でも自分の気持ちがつかみきれずに、言葉がふわふわしているのがわかった。

 ヴァレンタインは足を緩めることなく、ぽつりと言った。


『その理由は、戻ればわかるでしょう』

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