幕間紀行 『ヴァレンタインマスク(5)』
仮面職人。
つまり、この店で仮面を作っていたおれのおじいさん。
ジョットのことだ。
あの兄弟がジョットについて話した。
すると、ヴァレンタインは言った。
『呪術に詳しいのかい?』
『魔法道具の効果を持った仮面も創ってて、呪術対策の仮面もあるからな。多少は詳しくないと創れないだろ』
ヴァレンタインは薄く微笑む。
『確かに』
ちなみに。
うちのおじいさん――ジョットは魔法道具も創っていた。
ただの仮面じゃない魔法道具も創っていたって意味なんだが、主に呪術対策を施したものだったらしい。
たとえば、見たら石化される魔法なんてのは呪術的な魔法だろう?
そういう魔法に抵抗があって、仮面をしていれば見ても石化しない。
みたいな感じさ。
他にも、この呪術的な構造を利用して魔法を編み込んだものもある。
影が見えなくなるとか、匂いを消すとか、そういったことができる仮面も創ったそうだ。
おれは魔法なんてからっきしだが、ジョットの弟子で晴和王国に行った仮面職人はこの魔法を受け継いだって話だぜ。
え?
知ってる?
晴和王国の王都にいるのか。
へえ、今も受け継がれてるんだな。
『失効人』井山智子か。
機会があれば会ってみたいね。
そうか。
アキとエミの友だちのチナミって子や、トウリとウメノって子もそのお面を持っているのか。
意外と世界は狭いっていうか、世界ってのはつながっているものなんだな。
実は、うちのおじいさん……ジョットは、晴和王国に行ったことがあって、そこでは晴和王国の呪術も学んだそうだ。
晴和王国ってのは不思議な国みたいで、陰陽師じゃなくても晴和人であるだけで霊性が高いとかなんとか、ジョットはおれによく言ったもんだが、呪術のエキスパートだという。
そして、晴和王国の旅で見たキツネのお面が目と鼻だけを覆う形だったのに惹かれて、自分の作品にもその要素を取り入れたらしい。
とにもかくにも。
ヴァレンタインはジョットを探してこの店を訪れた。
店では、聞き取り調査が行われた。
『初めまして。小生は欧句所斗場錬汰因といいます。あなたが仮面職人、ジョット氏ですか』
『そうだが。おれになにか用かい?』
『ええ。最近このあたりに出ると噂される、少女の亡霊についてうかがいたいのですが、よろしいでしょうかな?』
『構わないよ』
『ありがとうございます』
『でも、なんでそんなことを、このおれに?』
『この街に現れる亡霊を退治して欲しいと頼まれてやってきたのですが、調査をしていたところ、あなたは呪術を扱うとか』
『呪術ってほどじゃない。仮面の魔法道具さ』
『ご謙遜を。素晴らしい仮面の数々ではありませんか』
『ありがとう』
ジョットはちょっとはにかみ、お礼を言った。
そして、改めて尋ねた。
『それで。おれの仮面と亡霊にはなにか関係があると?』




