幕間紀行 『マジックマレット(13)』
『ゼンゾウ、聞こえるか』
大黒様の声がします。
『ゼンゾウ、ゼンゾウや』
ん~っと、ゼンゾウはまだ目を覚まさない。
『こら、ゼンゾウ!』
『はい!』
ゼンゾウ、飛び起きます。
『大黒様! 大黒様じゃありませんか』
『今日は豆を供えてくれてありがとう』
『その約束でしたから。でも、すみません。ついに四十八種類は集められませんでした。あと三種類がどうしても見つからなくて』
うなだれるゼンゾウ。
『それでいいのだ』
『それで、いい? どういうことです?』
『いいか? ゼンゾウ』
『はい』
『おまえはきっちり四十八種類の豆を育てた』
『いや、おれはあとは三種類足りなかったような……あれ、四十八種類あったのかな。数え間違えていただけか。はい、四十八種類ありました』
『馬鹿者! 四十五種類だ』
『なんだ、やっぱり四十五種類じゃないですか』
『わしが言っているのはな、おまえは四十五種類もの豆を集めて、植えて、育ててきた。そして、おまえがそうする間に、手マメ足マメができて、性格にもマメさができて、そのマメもしっかり育てて、今日わしの前に見せてくれた』
『あ! おれの手マメ足マメとマメになった性格も供えたから、四十八種類だってわけですか!』
『うん、そうだ』
手マメ足マメで二つ。
性格のマメさで一つ。
合わせて三つのマメになる。
それと畑で作った四十五種類の豆で、合計四十八種類の豆になったと、こういうわけでございます。
ゼンゾウもそうとわかると大喜びです。
『やったー! 四十八種類の豆は集まってたんだ!』
そこにすかさず、大黒様は言います。
『ゼンゾウ』
『まだなにかあるんです?』
『おまえは大事なことを忘れている』
『大事なこと?』
相変わらずすっとぼけているゼンゾウ。
当初の目的もすっかり頭が抜けております。
大黒様は仰々しく打ち出の小槌をかざします。
『約束通り、四十八種類の豆を供えたおまえに、この打ち出の小槌を振ってやろう』
わっと気づいたゼンゾウ、即座に頭を下げました。
『ありがとうございます!』
『一つ振れば、一つ良いことが起きる。なにが起きるのかは、わからないものと思え』
『え? わからない? それなりの金持ちになって、気立てのいい嫁がもらえるんじゃなかったんですか?』
『きっと、それも叶う。だが、打ち出の小槌はおまえが自分で願いを叶える手伝いをするだけだ。きっかけがあるはずだから、その良い縁を見逃さず、これからも十二月九日に豆を供えられたら、そのうち願いも叶っていることだろう』
そう告げると。
大黒様はトン、と一つ、打ち出の小槌を振った。
『良い事があるぞ。ゼンゾウ』
すると。
にっこりと優しい笑顔をゼンゾウを見せて。
目の前にいた大黒様は、すぅーっと消えてしまった。




