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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編集】
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幕間紀行 『マジックマレット(10)』

 家の畑仕事を手伝わないのは相変わらずのゼンゾウだったが、翌日からも畑をちょっとずつ耕し、豆を買うために家事の手伝いもした。

 お駄賃をもらえば豆を買いに行き、ついにはこの近所で売っている豆は制覇してしまった。


『母ちゃん、このへんで買える豆はもうないみたいだ』

『町に行けばあるかもね』

『町か。やっぱり町に行かないとだよな』

『ゼンゾウ、豆は何種類集まったの?』

『二十種類』

『もう少しで半分か。ゼンゾウが豆を植え始めてから一ヶ月、よく集まったもんだよ』

『おれの畑もようやくポツポツ芽が出てきたし、新しい豆も仕入れないといけないな。おれ、明日は町に行ってくるよ』

『わかった。気をつけて行っておいで』


 母親はゼンゾウがご飯を食べる姿を見て、小さく微笑みます。

 あのゼンゾウが『おれの畑』なんて言うとはねえ、と心の中で思う。

 そんな言葉がゼンゾウの口から出たことも、実際に畑を耕したり豆を育てるようになった行動の変化も、母親にとっては驚くべきものだったわけですね。

 わたくしも講談師になりたいと言ったときには大層母親に驚かれたもんだなと思い出します。

 そうですねえ、父親があんまりわたくしが講談をしようってことに関心がなかった点もこの親子に似てるでしょうか。

 今は違うんですよ。

 わたくしのノートやら和紙のファイルやらのグッズが出るってなったときも、全部買ってくれて。

 当時は売れなくて売れなくて百部しか作らなかったのに余りに余って、わたくしが売店まで様子を見に行って、


(こん)(じゃく)(てい)(さん)(ぞう)()のグッズって売れるのかな?』


 なんて売店のおばちゃんに聞いたら、


『全然売れないよ、まったく売れないの。あははは。こんなに売れない人もいるんだねえ』


 本人目の前にいるよ、と言いたくなりましてね。

 しかも、初めてのグッズですよ。

 なにも笑うことないじゃないかと思って数日後、また売店を覗いてみたら随分はけてる。

 なんだ、やっぱりおれ人気あるじゃん、ってごきげんで売店のおばちゃんに、


(こん)(じゃく)(てい)(さん)(ぞう)()売れたんだ?』


 て聞くと、


『一人で何部も買ってってくれたお客さんがいたのよ。あの人、人気なくて売れ残ってたから助かっちゃった』


 だから本人目の前にいるよ、と思いながらもね。

 グッズが売れたのがうれしくて、


『どんな人が買ってくれたの?』


 て聞いてびっくり。


『おじさんのファンみたいでね。そうそう、あんたにちょっと似た顔の』

『へえ、おれに』

『うん、あっさりした顔』


 あっさりってなんだ、ってツッコミは入れませんでしたけど。

 あとで知ったんですよ、親父がグッズを買ってたって。

 父親ってのはそういうもんなのかもしれませんね。

 まあ、親父の話はいいんですよ。



 母親がいつも気にかけて心配してくれて、というのはゼンゾウの親子も同じで。

 この物語はゼンゾウの成長譚ではございますが、母が子を見守る物語でもあるんですね。

 さて。

 そんな母親は翌日、ゼンゾウを送り出します。

 ゼンゾウは町に行って豆を買い回った。

 それで集まったのは十九種類。

 結構な数が町に売っていたわけです。


『母ちゃん、これで三十九種類だぞ』

『そうなると、あと九種類か』

『ああ。それで四十八種類になる。今度、もっと遠くの町に行かないといけないかもしれないな』

『時期によっても手に入る豆は変わることもあるし、気長にやることだね』

『時期か! なるほどな』


 そうして、ゼンゾウは豆を植えて育てていき、季節は夏になった。

 しかしこの年。

 雨が降らなかった。

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