幕間紀行 『マジックマレット(7)』
木彫りの大黒様に、ゼンゾウは尋ねました。
もちろん返事はありません。
だが。
その日の晩は違いました。
大黒様が夢枕に立った。
ゼンゾウは夢の中とも知らず、布団から飛び上がると、大黒様に向かって正座しました。
『大黒様! おれの頼みを聞いてくれるんですか』
『違う』
『じゃあなんだって言うんです?』
『昼間、おまえはどうしておれの頼みを聞いてくれないんだと言ったな』
『はい。言いました』
『それに答えてやろうと思ったのだ』
『へえ。そっちでしたか』
『頼むばかりで自分でなにもしない者を助けたい者などいない。自分を大事にしない者を助けたいと思う者もいない。わかるな?』
『はあ。なんとなく。わかるような。わからないような』
『頑張っている者やまじめで良い心を持つ者を、わしも助けたいと思ったとしてもそれは道理だと思わぬか?』
『はい。思います』
『わしを大事に扱い、わしを敬い慕っている者を、わしも助けたくなると思ったとして、それも道理だとは思わぬか?』
『はい。思います』
『わかればよろしい』
そう言うと、大黒様はふわっと消えてしまいました。
『あ、大黒様!』
叫んで、ゼンゾウは目を覚まします。
『夢、か。夢枕に立つってこれか』
それからゼンゾウは木彫りの大黒様に視線を移します。
『なるほど。おれが大黒様のホコリを払ってやったから、それだけ教えてくれたってわけか』
ゼンゾウはあぐらをかいて、腕組みしました。
『まずは大黒様からお告げを聞けるように、少なくともお叱りだけでももらえるように、大黒様をきれいに磨いてみよう』
夜中だというのにゼンゾウは木彫りの大黒様を布できれいに拭いてやりました。
翌朝も、起きてすぐに木彫りの大黒様をきれいに拭きます。
しかしそれだけしたら他にすることがなくなります。
『大黒様もきれいにしたし、やることなくなったな』
やることならいくらでもあるだろ、働け、と父にも言われますが、ぼんやりとしております。
さて。
ぼんやりにも飽きがきたのか、ゼンゾウは立ち上がりました。
『大黒様はなにもうちにだけいるわけじゃない。大黒様のいる神社にでもお参りに行くか』
なにを思ったか、神社に行くことにしたゼンゾウ。
大黒様の石像がある神社を知っていたので、そこに行ってみようと思ったわけです。
なかなかめずらしいようで、たまにありますね。
大黒様の石像がある神社。
たとえば、天都ノ宮総鎮守である天晴神社。
あそこはすごいですよ。
特大サイズの大黒様の石像がおりますから。
他にも七福神の神様たちの石像がそろっている神社なんかもありますし、神社っていうのはいろんな種類がありますね。
ゼンゾウが行ったのも大黒様の石像がある神社でして。
これまで来たこともなかったので、初めての参拝になります。
しかもゼンゾウ。
実は、三日もかけてやって来ました。
神社に着くとすぐに大黒様を探します。
『大黒様! どこだろう』




