幕間紀行 『マジックマレット(4)』
植物は内面を磨くなんてできません。
犬や猫もそうですね。
うちで飼ってる子が自分磨きしてるんだよ、マメな犬でさあ。毎日コツコツ努力して、最近自己肯定感が高まってるみたいなの。
なんて聞きませんよね。
いくら殊勝なペットでも人間が教えずとも芸を勝手に覚えて自分を高めようなんて思いません。
人間がしつけないとトイレさえ覚えませんね。
動物はそれでいいんです。
でも人間は違います。
身体の成長が止まっても中身を磨くのは人間だけです。
かくいうわたくしも、芸を磨くとか御霊を磨いて器を大きくするとかしないと、ただ年を取っただけになってしまいますから、日々精進でございます。
とはいえ、御霊磨きなんて言うと難しい気もするが、物を見聞きして学ぶと言えば自分にもできそうだと思いますし、先人の教えってのは民話にもなっていたりもするもので。
そこからも学ぶヒントは隠されています。
今からお話しする『大黒様と四十八豆』も、東北地方の粋奥ノ国の民話になっておりますけれども。
元々が民話で講談や落語のネタにもなってないので、やってるのはわたくしだけなんじゃないかなあと思います。
とまあ。
枕が長くなってしまいましたが。
これでもいつもよりはちょっと短いんですよ。
ただ、短くてもね。
民話を話すよ、先人が物語にして残してくれたことだよ、と。
それを最初にお伝えできるのが枕のよいところではないかなと思っております。
さて。
今から話す『大黒様と四十八豆』というお話も単純明快なストーリーラインですから、どうぞ気楽に聞いてもらえたらと思います。
これをわたくしが講談という形で語り継いでいこうということで、一席お付き合い願いたいと思いますが。
主人公は二十歳になる若者です。
住んでいたのは小さな村。
この若者、身体だけはもう成長しきって身長も一八〇センチ。
だが、年も二十五にもなればこれ以上背は伸びない。
身体の成長は終わっております。
そうなると中身が成長していくのが理想だが、この男、村きってのなまけ者でしてね。
いくつにもなっても、いっこうに働こうとしない。
名前を戸村善三といって、家の畑仕事も手伝わないで毎日寝てばかりいました。
しかしある日。
ゼンゾウがいつものように木陰で横になっていると、立派な身なりの侍が通りかかります。
旧戦国時代のものですから。
侍なんぞ珍しくもありません。
このなまけ者のゼンゾウ、侍に興味はありませんから、いくら身なりが立派でもひと目見てまた閉じます。
閉じますが。
また開けてしまう。
なぜなら、侍の顔に見覚えがあったからでございます。




