幕間紀行 『ネイチャースピリット(2)』
ムネアキは、船を陸に近づけていきました。
ヨシの葉に引っかかって、ゴミが浮いていたのです。
「かわいそうに……」
ゴミを拾って船に乗せ、ヨシの葉に声をかけます。
「すまんな。人間の身勝手でゴミが流れてしまったせいで」
さらに川を下流に向かって進めて、しばらくすると。
なんと、またヨシの葉にゴミが引っかかっていました。
「昔はこのへんも川の水がきれいで、魚が飛び跳ねていたっていうのに。川が汚れちゃあ、魚も住めないよな」
船を移動させ、ムネアキはゴミを拾いました。
「海に近いところだからか、晴和王国以外の国のゴミもあるように見える。人間が増えれば世界中でも海や川が汚れる。そして、魚たちがどんどん住めないようになっていく。そんなのあんまりだよなぁ……」
今、目に見える範囲でもゴミがちらほら見えます。
それらのゴミを片っ端から拾っていくことにしました。
「ヨシの葉や。すまんな、おまえさんたちが川をきれいにしてくれているっていうのに。おれたち人間が汚して……」
ムネアキの言った『ヨシの葉』についてですが。
ヨシというのは、イネ科の草で昔はアシと呼ばれていました。
良し悪しという言葉があるように、アシという名前では縁起が悪いということで、ヨシとも呼ばれるようになったそうです。
つまり、元々がアシでしたから、アシと呼ぶのも間違っていません。
アシが昔の呼び方、ヨシは今の呼び方、という感じでしょうか。
「さあ、きれいにするぞ」
見えるゴミを拾ってゆくムネアキ。
この日はそれだけで一日が終わってしまいました。
帰り道、上流へと向かって船を漕ぎながら、ムネアキはおかしそうに笑いました。
「まあ、どうせ魚もなかなか釣れなかったし、釣りの時間が減っても大した問題じゃないよな」
また川を少し上っていくと、渡し船がありました。
そこにはまた人がいます。
「向こう岸に行きたいんだけど、いいかい?」
「もちろんですとも」
客が渡し船に乗り込みます。
「今日も客がいるのか。良い商売だな……」
ムネアキはまた渡し船がうらやましくなりました。
しかし、頭をぶんぶんと横に振ります。
「いやいや! おれにはやらなきゃならないことができた。川をきれいにしてやりたいんだ」
なにか使命感のようなものが、今のムネアキには湧き上がってきているのです。
「川がきれになれば、また魚が増えて釣りができる」
それからムネアキはふふっと笑います。
「なんだか、今日わかったんだ。おれは釣りが好きなんだな。もう少し、ゴミ拾いを続けてみるか。釣りのためさ」
川の水をきれいにしたい想いと、釣りが好きだという気持ち。
その二つを胸に、ムネアキは家に帰りました。
布団に寝転がり、仰向けになって声に出します。
「川をきれいにしてやりてえな。釣りもしたい。ヨシの葉がせっかくゴミを引っかけて取りやすくしてくれてんだ。ヨシの葉っていう手伝ってくれる仲間もいる。明日も頑張るぞ」
ただ魚の釣れなかった最近の晩に比べて、この日はなぜか心地よく眠りにつくことができました。




