幕間紀行 『ネイチャースピリット(1)』
エミがウキウキと言った。
「結構久しぶりだなあ、『ヨシの葉のお礼』」
「晴和王国の話だから二人共きっと知らないよ」
アキにそう言われて、リディオは感嘆の声を出す。
「おお! いいな!」
「そうだね。ボクも興味ある。これはどこの話?」
ラファエルの質問にエミが答える。
「五州地方の豊珂ノ国だよ」
確か、とラファエルは思い出す。
情報通のラファエルには晴和王国の地図もちゃんと頭に入っている。
五州地方というのは、晴和王国の本州の南西に位置している大きな島とさらに南西に離れた場所にある島の総称だ。五州という名の通り、五つの国に分かれている。
サツキの世界で言えば、九州と沖縄県がこれに相当し、豊珂ノ国は福岡県や大分県のあたりになる。
四人の会話を聞いたトメタロウは、「なるほどね」と口にして、みんなに問いかけた。
「みんなもいいかい?」
「はーい!」
「いいよー」
子供たちの了解も得たところで、トメタロウは『ヨシの葉のお礼』の話を探し出した。
リディオがアキに聞いた。
「どういう話なんだ?」
「それは見てのお楽しみだよ」
「そっか、楽しみだな!」
「さあ。みんないいかな?」
準備のできたトメタロウが呼びかけると、子供たちがまた「はーい」と返事をする。
パカッと紙芝居の扉が開き、
『奇妙な怪画の案内人』は物語に案内する。
「みんなも晴和王国の不思議な自然環境は知っての通り。他国に類を見ない。晴和王国には、晴和王国にしか生息しない植物や動物がたくさんいるんだよね。それは、昔の人たちが人に優しく、自然にも優しくしてきて、今の人たちもそうしているから……。かもしれない。ということで、『ヨシの葉のお礼』のお話のはじまりはじまり」
◇
昔々。
五州地方は豊珂ノ国に、一人の青年がいました。
名前を筑島宗昭といって、川で釣りをして、その魚を売ることを生業としていました。
ムネアキはいつも川に行きます。
その川は、海までそれほど離れていませんでしたから、川幅も広く、そのため橋が架けられませんでした。
橋がないと人の行き来ができません。
向こう岸に行きたい人は渡し船に乗るのが普通でした。
しかし、ムネアキはこの近くに住んでいて釣りを生業としているおかげで船を持っており、いつも川を移動して釣りをするのです。
ある日、ムネアキはいつものように川に出かけました。
そこでは、渡し船に乗る人がいます。
「向こう岸まで頼むよ、兄ちゃん」
「あいよ!」
なんだか景気が良さそうです。
渡し船が出て行くのを見送って、ムネアキはぼやきます。
「へえ、今日も渡し船には客がいる。儲かるんかなあ? 最近、魚もなかなか思うように釣れないし、おれも渡し船をしたほうがいいだろうか」
しかし、渡し船をするには船はボロで小さいし、ムネアキも船を漕ぐのが上手ではありません。
「やっぱり、おれには釣りしかないか」
ムネアキは船を出して釣りを始めました。
釣りを開始して二時間。
魚がかかりません。
「今日は釣れないかな。いや、もう少し粘ってみよう」
ムネアキは船を移動させました。
下流へと向かって移動して、ふと船を止める気になりました。
「あんなところに……」




