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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編集】
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幕間紀行 『ワームアップ(6)』

 ヤスベエは動けなくなっていました。

 ガタガタ震えて凍りつくような寒さです。


「うぅ、寒い、寒いよぉ……」


 もう動くこともできないのに、涙だけは出てきました。


「ブンキチぃ……ごめん、ごめんよ……」


 泣きながら小さな声で謝るヤスベエ。

 そこに、ブンキチが戻ってきました。


「おお、ヤスベエ。やっぱりまだここにいたか」

「ブンキチ!」

「どうだ? 少しは反省したか?」

「え」

「いつもおまえが村の人たちに悪さばっかりしてるせいで、村の人たちも今のおまえみたいに困ってるんだ」

「そうだったのか」

「いじわるばかりしてると、自分が困ったとき、だれも助けてくれなくなるんだぞ?」

「うぅ……わーん!」


 大きな声で泣くヤスベエに、ブンキチは問います。


「これに懲りて、もう悪さをしないと約束するか?」

「する!」


 ヤスベエは即答しました。


「村のみんなとも仲良くするって約束するか?」

「する! するよ!」


 ブンキチはじっとヤスベエの目を見ます。

 嘘をついている目には見えません。


「よし、わかった。じゃあ、これを食え」

「おむすび?」

「梅干しの塩むすびだ」


 震えるヤスベエが自分が上手に食べるのは難しいだろうと、ブンキチは梅干しの塩むすびを口に運んでやりました。

 ヤスベエはかじりつきます。


「あむ、あむ」


 食べていると、少し身体が温まってきました。

 顔色も戻ってきます。


「うめえ、うめえ! こんなにうまいもん、初めて食べた!」

「そりゃあ、うちの嫁の作ったもんだからな。うまいに決まってる」

「うめえ」

「どうだ? 動け……ないか、まだ。じゃあ、おれが背負って村まで行ってやるから、ちょっと丸まってくれ」


 梅干しの塩むすびを食べ終わったヤスベエは、ブンキチの魔法《(まき)(まき)》でヤスベエを細く伸ばしてしまいました。

 棹のように細くなったヤスベエは、ブンキチの駕籠にうまいこと入りました。


「布も巻いてやる。これでちょっと寒さをしのげるだろう」


 細くなったおかげで布も簡単に巻いてやることができました。


「ありがとう。恩に着るよ、ブンキチぃ」

「さあ、行くぞ」


 ブンキチは大玉の梨をいっぱいと重たい釜とそれよりも重たいヤスベエを背負って、せっせと山を登りました。

 こんなに重たいものを背負っての山登り。

 しかも雪で寒くて、足場も悪い中での山登りです。

 かなり苦しい上に辛いはずなのに、ブンキチはヤスベエのことも見捨てずに山を登っては降りて、ようやく村に辿り着きました。

 村に戻ってきたのは夜です。

 元の形に戻してもらったヤスベエは、泣きながら言いました。


「ありがとう、ブンキチ! オレ、もう悪さはしねえ! みんなとも仲良くして、ブンキチにも恩返しするよ」

「おれのことはいい。反省したんなら充分だ」


 その様子を見て、ヤスベエにほとほと嫌気が差していたブンキチの妻はなにがあったのかと首をかしげました。

 さて。

 この一件によって反省したヤスベエはというと。

 今までのような悪さはしなくなり、すっかり心を入れ替えて村の人たちとも仲良く暮らしましたとさ。

 ただ、元々子供のような遊び心を持っていたヤスベエでしたので、たまには子供たちといっしょにイタズラをしましたが、村の子供の面倒も見てやっていたので大目に見てもらえたそうです。




 そんなわけで、このあたりの地域では、塩で身体を温めて、梨は寒いときには控えるようにしよう、という習慣ができたということです。




   ◇




「おしまい」


 わーっと、アキとエミが拍手する。

 リディオも子供たちもいっしょに拍手して、ラファエルは「なるほど、おもしろい」とつぶやいた。

 トメタロウはリディオとラファエルに聞いた。


「どうだったかな? 『梅干しの塩むすび』は」

「おれも食べたくなったぞ! あと梨も」

「食べようよ。今はまだ夏だから()(えつ)ノ国の梨は時期じゃないけど、梅干しの塩むすびは食べられるしね」


 と、アキが言った。


「これもよくできた訓話だね。やっぱり面白いな、晴和王国は」


 ラファエルは話のほうが気に入ったらしい。

 エミも同意する。


「だよね! 晴和王国のお話はおもしろいんだよ」

「そういえば……」


 塩に関連して、ラファエルはもう一つ思い出したことがある。

いつも読んでいただきありがとうございます!

今回はブンキチとヤスベエのラフイラストを掲載します。

イラストをタップすればみてみんからプロフィールをご確認いただけます。


【ブンキチ】

挿絵(By みてみん)


【ヤスベエ】

挿絵(By みてみん)

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