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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編集】
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幕間紀行 『ワームアップ(5)』

 山を登っていたブンキチでしたが。

 ヤスベエが座っているのを見つけました。


「はあ、はあ」


 どうやら疲れて休んでいるようです。


「よう、ヤスベエ。休憩してたのか」

「おう、ブンキチ。オレもずっと歩いてたからな。それに、梨もしこたま買って重たいったらねえ」

「それじゃあ、おれに一つでいいからくれないか? そしたら少し持つよ」

「一つくれだ? やだね!」


 梨の入った駕籠を引き寄せ、ヤスベエは中から梨を一つ取り出しました。


「こんなうまいもんをやれるわけねえだろ」


 と言って、ヤスベエは梨をかじりました。


「うめえ! やっぱりこの梨はうめえや!」


 ペロリと一つ食べ終えると、続けて、二つ三つとこれ見よがしに食べていきます。


「疲れた身体にはうまいもんが沁みるな! うめえー!」


 そうやって五つも食べた頃。

 ブンキチが呆れて、


「じゃあ、おれは先に行くぞ」


 と歩き出したときでした。

 突然、ヤスベエがガタガタ震え始めました。

 顔もみるみる真っ青になっていきました。


「どうしたヤスベエ」

「さみい……さみいよ! 寒すぎるぅ……」


 両腕で自分の身体を抱くようにしてガタガタ震えているのです。


「そりゃそうだ。梨は身体を冷やすんだぞ。一気にそんなに食べたら凍えるよ」

「た、助けてくれ……」


 可哀想なくらいに震えるヤスベエを見て、ブンキチは少し考えます。


 ――これはいつも悪さばかりするヤスベエが反省するには、良い機会かもしれない。ちょっと酷だけど、もう少し痛い目にあっていてもらおう。


 ブンキチはぷいっと顔を背けて歩き出しました。


「おれにはどうすることもできない。悪いが先に行くぞ」

「そ、そんなあ……」


 普段から親切なブンキチは心を鬼にして、ヤスベエを見捨てて先に進むことにしました。

 しばらく歩いて、ブンキチも寒さを感じます。


「うぅ、寒い。雪もさっきより強くなってきた。あいつじゃなくても寒いほどだ」


 夕方が近づくにつれて、どんどん気温も下がってきています。


「おれも……」


 身体がぶるぶると震えてきました。


「あ、歩けなくはないが……さすがに、寒いぞ……」


 なんとブンキチまで顔が青くなってきてしまいました。

 歩くのも遅くなって、ついに足を止めてしまいます。

 しかし、足を止めたのは自分が歩けなくなったからではありませんでした。


「この寒さじゃ、あいつ、凍えて死んじまう」


 ブンキチは来た道を振り返りました。

 本当は懲らしめるために助けないつもりでしたが、ブンキチはどうにも心配になって気持ちを変えました。


「しょうがないな。助けに行ってやるか。その前に、おれも凍えちゃ仕方ない。まずは梅干しの塩むすびを食べよう」


 妻が作ってくれた梅干しの入った塩むすびを取り出して、食べ始めます。

 するとどうでしょう。

 どんどん身体がぽかぽかしてきました。

 実は、ブンキチはこの地方で食べられる塩引きが身体を温めてくれることを知っていたのです。

 塩引きとは、鮭を塩で漬けたもので、普通の塩漬けよりもたっぷりの塩を使ってしょっぱいのが特徴で、その塩が身体を温めてくれるということです。

 だから、塩に漬けたしょっぱい梅干しと塩を振った塩むすびの組み合わせは身体を温めてくれるとわかったのでした。


「血が指先や足先まで巡るのがわかる。温まってきたぞ。よし、待ってろヤスベエ」

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