幕間紀行 『ワームアップ(3)』
二人はほとんど休むことなく歩き続けました。
お昼前には町に行きたいと思っていたブンキチでしたが、本当にお昼前には町に到着しそうです。
「良い調子だ」
「だな」
「ここらへんで、ちょっとだけ休もう」
「なんだブンキチ、疲れたのか?」
「そりゃあ、荷物も背負って山を登ったんだ。少しは疲れるさ」
「オレはまだ大丈夫だ」
「おまえは荷物が少ないからな」
ブンキチは釜を持って帰るためにも大きくて丈夫な駕籠を背負っていましたが、ヤスベエは軽い竹の駕籠だったからです。
「そんじゃあ、オレは先に行くぞ。いいだろ、ブンキチ」
「構わないが、気をつけて行けよ」
「気をつけることなんかあるもんか」
「まだ山道、下り坂だ。あんまり急ぐと転ぶからな」
「平気だって言ってるだろ。じゃあな」
町で会おうぜ、とヤスベエは先に行ってしまいました。
ブンキチはひとりごちます。
「どうせ、先に進んでどこかでイタズラを仕掛けて、おれが通りかかるのを待ってるんだろう」
昔から何度も何度もヤスベエにはイタズラを仕掛けられてきたブンキチだったので、やりそうなことは想像がつきます。
年はブンキチが五つ上なのもあり、ブンキチにはヤスベエがいつまでも子供の頃のまま成長していないように見えて仕方ないのです。
実際、やることは変わっていないのですから当然ですね。
さて。
少し休んだら、ブンキチはまた歩き出しました。
そうして五百メートルも進んだところで。
地面に縄があることに気づきました。
足を止めてよく見てみると、脇の草むらからヤスベエのお尻が見えてしまっています。
――ははーん。縄の片方を木にでも縛っておいて、おれが通りかかったところで縄をピンと張って、おれを転ばせようとしてるんだな。そうはいかないぞ。
ブンキチはなんでもないフリをして歩きます。
「ふう。もう少しで町。早く着かないもんかなあ」
そのとき、足元の縄がピンと張って高さが変わりました。
本当ならそのまま歩いていたら足が引っかかるところを、ブンキチはひょいと足を持ち上げて避けました。
「なあ、ヤスベエ。おまえのやりそうなことはわかってる。時間の無駄だからやめておけ」
「こんなのただの冗談だろ」
草むらからヤスベエが顔を出して言いました。
「頼むから町では悪さをして町の人たちを困らせるなよ。おれたちの村の評判も悪くなるからな」
「へへーんだ、オレの知ったことじゃねえや」
「おまえは本当に……」
「オレは先に行くぞ!」
ヤスベエはパッと走って先に行ってしまいました。
「やれやれ」
ブンキチは縄を辿って木からほどくとそれを自分の駕籠に入れて、この道を通る人の邪魔にならないようにして進みました。
ふと、空を見上げます。
「今日は雪の具合もよくないな。午後もいつもより冷えそうだ」




