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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編集】
1288/1373

幕間紀行 『ミリングソルト(9)』

「そうだった。止まれ!」


 兄は石臼を止めようとして叫びましたが、塩はまるで止まりません。吹き出し続けています。


「なんだ、こいつ」


 石臼を抑えようとしても動き続けます。回る石臼は力尽くでもどうにもなりません。


「まだ動きやがる! こいつめ!」

「クソ! クソ! 止まりなさいよ!」


 二人は石臼を叩いたり蹴ったりしますが、止まる気配はありません。


「うわあ、どうするのよ」

「知らねえよ!」

「沈むー!」

「止まれー!」


 しかし、塩が止まることはありませんでした。

 左に回さなければ止まらないのですから当然です。


「だれかー!」

「助けてくれえぇ!」


 二人の船は沖からも随分と離れ、遠くまできていました。

 そのため、二人の船はだれに見られることもなく、塩の重さで人知れずに沈んでいくのでした。

 それ以来、二人を見た者はありません。

 また、いっしょに沈んだ石臼ですが。

 今もまだ、海の底で《()()(うす)》は塩という言霊を挽いて塩を引き寄せ続けているということです。

 だから、海の水が塩辛いんだとさ。




   ◇




「おしまい」


 わーっと、アキとエミが拍手する。

 子供も楽しそうに手を叩いた。

 トメタロウは言った。


「他の国では、石臼が違う名前の魔法道具になっていたり、細かい部分がいろいろと違ってるそうなんだよね」

「ねえ、トメさん。若者はどうなったの?」

「気になる」


 アキとエミが若者のその後を気にしているが、トメタロウは首をかしげてあっさりと答えた。


「さあねえ。幸せになったんじゃない?」

「そうだね」

「うん、あの若者なら大丈夫だね」


 二人は納得を示す。


「あとさ、あの若者って白菜にどんな言葉をかけてあげてたのかな?」

「アタシは『可愛いね』って言ってたと思う」

「そう言われると、白菜もきっと嬉しいもんね。ボクは『ぴかぴかして綺麗だね』って言ってた気がする」

「それもいいね」


 ラファエルが考えもしないポイントに思いを馳せるアキとエミ。想像力が豊かなのか、着眼点が変わっているのか。しかしそこが二人の良いところだとラファエルは思った。

 近くにいた子供がつぶやく。


「でも、塩がないと戦えなくなっちゃうって知らなかった」


 これに答えるというわけではないが、ラファエルが淡々と言った。


「世界各地の戦争や植民地支配では、塩による管理はよく行われていたんだ。ほんの数十年前の戦争でも、軍医の手記にこうあった。塩を含んだ兵糧がなくなると体液が作れなくなり、食べても戻してしまって、衰弱し、隊から落伍して涙も出ずに死んでいった。また、スパイの拷問でも塩抜きは有効で、どんなに意志の強い者でも精神力が保てなくなるらしい」

「ついでに言うと。世界中で塩抜きって拷問もあってな、塩を抜かれた食事を与えられると、徐々に体調を崩して、気力を失っていくんだ。確か、塩抜き三日で食欲がなくなって、冷や汗が出たりと異常も出始めて、五日もすればやる気もなくなるんだって。一週間やそこらで筋肉も痙攣しちゃうって話だったな。尋問をすればどれだけ口のかたい人でも自供するんだぞ」


 リディオもそう補足した。

 ラファエルはこれもまた淡々と、


「さらに厄介なのが、晴和王国でも倒幕といっしょにそれをされかけたって話だね。偽物の塩を売りつけられる計画があったんだ。ミネラルとか大事な栄養素だけ取ってさ。そうすれば晴和王国の人間たちがおとなしくなり気力が失われ、逆らわなくなる」

「身体を温めたり、魔力の流れを整える働きもあるって聞くし、強い晴和人を恐れ嫌っているブロッキニオ大臣たちならやりかねないよな」


 二人がそうした会話を紡いでいると、子供たちがポカーンと見ていることに気づいた。


「ああ、みんなごめんな! ちょっと難しかったよな!」


 ははは、とリディオが笑ってごまかそうとすると、トメタロウも楽しそうに笑った。


「物知りだねえ。まあ、このお話も寓話だからいろんな読み解き方をして教訓にするのはいいことだと思うよ。塩が大事なのは事実だからね」

「海が塩辛い理由がわかっておもしろかったー!」

「優しい若者といじわるな兄の違いも教訓になるよ!」


 子供たちは素直に楽しんでいて、アキとエミはそれをニコニコしながら聞いている。

 ラファエルは小さく笑った。


「こういう話をたくさん知ってるから、アキさんとエミさんはステキなのかもしれないな」

「だな。おれ、他にも見たくなったぞ」


 にこやかなリディオに、アキとエミが同意した。


「まだ見ようよ。いつもならあと一本か二本やってくれるよ」

「そうだよ。いいよね? トメさん」


 トメタロウはうなずいた。


「もちろん。次はなにをやろうか」

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