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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編集】
1286/1373

幕間紀行 『ミリングソルト(7)』

「米、米、米……」


 そう唱えながら、若者は石臼を右に回しました。

 唱えた言葉の言霊を挽くと、それが引き寄せられる。

()()(うす)》からは、たちまち米がこぼれるように出てきました。


「わわわわっ! 米が出てる!」

「おわあああ! 本当に出た! おじいさんの言った通りだ!」


 母が驚き、若者も驚きました。

 若者がつい手を止めてしまっても、石臼は米を出し続けています。


「止まらないよ?」


 その声で我に返った若者は、石臼を左に回しました。


「止まれ、止まれ」


 石臼は米を出すのを止めました。


「ひゃあ! すんごい石臼だねえ」

「右に回せば欲しい物が出て、左に回せば止まるんだってさ。次は味噌に、魚に、野菜も出そう」


 若者は石臼で欲しい物をなんでも出していきました。

 年越しに必要なものをすべて出し切ると、今度は外に出ます。


「もういいじゃない? 他に、なにを出すの?」


 母の問いに、若者は笑顔で答えます。


「家も出せるか試してみるんだ」

「家!? そんなものまで出るのかな?」

「まずは試しだよ」


 石臼に手をかけて、「家、家」と唱えて右に回します。

 するとどうでしょう。

 本当に家が出てきたではありませんか。


「止まれ」


 立派な一軒家が建ったので、若者は左に回してピタリと止めます。

 家が何軒も出てきては大変ですからね。


「本当に出てきたね……」

「これで、ぼくらも裕福に暮らせるね」


 そして翌日、若者は余計に米や味噌などを出して、それを困っている村の人たちに配りました。

 配り終えると、若者は母と二人で、満ち足りた正月を迎えることができました。

 正月が過ぎ、また若者は働きます。

 ただ、働くのは少しだけで、そのあとは村を見回って、困っている人がいると助けてやりました。

 兄の評判というのは村ではあまりよくありませんでしたが、お金にがめつい兄と違って若者は親切だったので、すぐに若者は村でも人気の長者になりました。

 これをおもしろくないと思ったのは、言うまでもありません。

 兄です。

 困った人が兄の元へお金や物を借りにきて、それに利子をつけて貸すことで金儲けをしていましたから、若者が困っている人を助けるたび、兄の元に行く人が減るわけです。

 当然、兄の儲けも減ります。

 しかも、弟が長者になったことも気に入らなかった兄なので、兄はどうして弟が長者になったのか、なにか秘密があるのではないかと考えました。


 ――あいつがこんな短い間に長者になるなんておかしい。きっと、なにか秘密があるはずだ。


 秘密を暴こうと企んだ兄は、立派になった弟の屋敷に忍び込み、弟を見張りました。

 母と二人、なんでもない平和な一日を過ごしているだけに見えます。

 が。

 そう思ったのも束の間、弟は奥の部屋に入っていきました。

 兄は障子に指で穴を開けて、部屋を覗きます。


「なっ……!」


 声が漏れますが、慌てて兄は口を押さえました。


 ――なんだあれは! ただの石臼かと思ったら、なんで米が出てくるんだ!


 若者は声と気配に気づき、障子の向こうから呼びかけてきました。


「だれかいるのかい?」


 兄はなんでもないフリをして出ていくことにしました。

 障子を開けて、兄は聞き返します。


「おう。ちょうど母さんの顔でも見ようと思ってきてみたんだが、おまえがこの部屋に入ってくのが見えたんでな。来てみたんだ。ん? なんだ、その石臼は」

「これは大事なものなんだ。詳しいことは言えないんだけどね」

「もったいぶるなよ、兄弟じゃねえか。おまえが瞬く間に長者になったことも気になってたんだ」


 若者はちょっと困った様子で、声を低めます。


「ナイショにしておいて欲しいんだけど」

「おう、任せろ。だれにも言わねえ」


 つい、若者は兄に石臼のことを話してしまいました。

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