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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編集】
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幕間紀行 『ミリングソルト(5)』

 歩く足を止めて、若者は慌てて後ろに下がります。

 強い風があったから目を閉じて開けたら、いつのまにかおじいさんがいたのですから、ぶつからないためにも下がったのですが、なにより驚いてのけぞったせいで後ろに二歩三歩と下がってしまったというのが本音です。


「すみません、おじいさん」


 若者はひと言謝りますが、おじいさんはケロケロしていて軽い調子で笑っていました。


「ふはは。今日は風が強いのう」

「は、はあ。強いですね」

「おお、うまそうな白菜」

「え……これですか。あの、よかったどうぞ」


 売れなかった白菜を一つおじいさんに渡しました。

 おじいさんはうんうんとうなずきながら白菜を見て、


「こういう愛情の込められたもんはうまいと決まっておる。ふはは」

「ありがとうございます」


 すると、おじいさんはふところからまんじゅうを取り出して、若者に差し出しました。


「麦まんじゅうじゃ。食うか?」

「これはこれは。おいしそうな麦まんじゅう。母が好きなので、母にあげたいと思います」

「そうか。これを一つ食えば一日分食べたくらい元気になる。しかしじゃな、これを食わなければ満ち足りた正月が迎えられる」

「……え? どういうことですか?」

「これを持って、あっちに見える祠に行くんじゃ。祠のそばにはほら穴があってな、ほら穴の中に入って、そこに住んでいる小人に麦まんじゅうを見せてやるといい。小人も麦まんじゅうが大好物じゃから、なにか良い物と交換してもらえるぞ」

「良い物!?」

「小人はいろんなもんを持ってるけどな、石臼となら交換してもいいと言うんじゃ。そうすれば、満ち足りた正月になる。他の物じゃなくて、石臼じゃぞ」

「わかりました。いってきます」


 若者は「ありがとうございます」と一礼して祠に向かいました。

 冷たい風も忘れて駆け足になって、あっという間に祠の前に到着しました。

 鳥居をくぐって、社殿に近づきます。


「ふう、着いた! そばに穴があると言ってたな。どこだろう」


 ほら穴を探しながら、若者はつぶやきます。


「母さんには悪いが、一日分の元気より、二人で満ち足りた正月を迎えたいからな。きっと、母さんも麦まんじゅう一つ食べるより、そのほうが嬉しいだろう。それにしても、小人か……そんなもんが本当にいるのか?」


 歩いていると、ほら穴はすぐに見つかりました。


「あった」


 若者はほら穴に頭を突っ込んで見回して、危険がなさそうと判断すると、さっそくほら穴に入ってみます。

 ほら穴の中は薄暗かったのですが、まったく物が見えないわけでもありません。

 不思議なほら穴でした。

 少し進むと、明るくなってきました。

 とても小さな松明があったのです。

 そして、なにやら小さな声が聞こえてきます。


「なんじゃ?」

「だれじゃ?」

「人間じゃ」

「人間か」


 だれの姿も見えないので、若者は不気味に思いました。

 しかし考えてみれば、穴の中にいるのは小人で、つまりとても小さい人たちですから、簡単に見えるわけがありません。


「驚かすつもりはないんだ。ごめんよ」


 若者がそう言うと、小人たちが顔を見せ始めました。


「おわあっ」


 小さな声で感嘆しました。

 本当に小人がいることに、若者は驚きました。

 そういう意味では、驚かされたのは小人よりも若者のほうでした。


 ――この世界には小人がいるって話も聞いたことはあったけど、本当にいるなんて……。いや、ただ小さいだけの小人よりも不思議な魔法や怪しい魔法なんかいくらでもある。小人くらいいておかしくないか。


 小人の存在を若者が受け入れようとして、心を落ち着かせていると。

 ぽろっと、ふところに入れていた麦まんじゅうが地面に落ちてしまいました。


「あ」

「あれは?」

「麦まんじゅう?」

「麦まんじゅうじゃ」

「うまそうじゃな」

「くれないなかな」

「食べたいもんじゃ」

「あの大きさなら、みんなで食べられるぞ」

「交換ならしてくれるかな?」

「そうじゃ、交換じゃ」


 若者は小人に尋ねます。


「麦まんじゅう、欲しいのかい?」

「欲しい」

「食べたい」

「くれるのか?」


 どうやら小人たちは相当麦まんじゅうが大好きなようだったので、若者はうんとうなずきました。


「ああ。食べるといい」

「やった!」

「食べられる!」

「久しぶりの麦まんじゅうじゃ!」


 ハッと、若者はおじいさんの言葉を思い出しました。


「でも、交換だ」


 麦まんじゅうを食べようとしていた小人たちが、食べかけるのをやめて、一斉に若者を見ました。


「交換しよう」

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