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MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮  作者: 青亀
イストリア王国編 ミニストーリー【おまけの短編集】
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幕間紀行 『ミリングソルト(4)』

「トメさーん!」


 エミが大きく手を振ると、紙芝居の準備をしていたトメタロウが二人に気づき、おかしそうに口元をほころばせた。


「あれ? 髪切った?」

「あはは、切ってないよ。トメさんってばそればっかり」


 二人で笑い合っているところを見ると、トメタロウとは随分仲が良いらしい。その姿があまりにも親しみやすくて、さっきまで感じた浮世離れした奇妙な空気が薄れて、なんだか見た目だけ怪しいだけの普通のおじさんのようにラファエルには見えてきた。


「ねえ、トメさん。今日は『塩ふきうす』が見たいんだ」


 アキが申し出ると、トメタロウはあっさりした調子で、


「へえ。あれか」

「みんな、いいかな?」


 聞かれて子供たちも「いいよ!」と答えてくれている。


「わかった。じゃあ、まずは『塩ふきうす』をやろう」


 トメタロウは『塩ふきうす』の話を探す。

 今日、王都でお昼ごはんを食べながらアキとエミが教えてくれたことをラファエルは思い出していた。

 動く絵で紙芝居をする王都の住人。

 年は六十を過ぎた男性。

 動く絵の仕組みは、魔法《(さい)(せい)(かい)()》によるものだ。

 数枚の画を一枚に閉じ込めて映像化することで、常に動画が再生されるように絵を動かす魔法である。


「さあ。みんないいかな?」


 呼びかけられた子供たちが「はーい」と返事をすると、パカッと紙芝居の扉が開いた。

()(みょう)(かい)()案内人(ストーリーテラー)』は物語に案内する。


「これは太古の昔から世界中で語られているお話だよ。『塩ふきうす』のお話のはじまりはじまり」




   ◇




 昔々。

 今よりもずっとずっと昔のこと。

 東北地方のある村に、まじめで心優しい若者がいました。

 若者にはいじわるな兄がいて、兄はお金持ちでした。


「もうすぐ大みそかか。でも、今年はどうやって年を越そうか。お金が全然ないよ」


 その年は、雨の日が少なくて、田畑の実りも悪かったので、若者は貧しい暮らしをしていたのです。

 この時期に取れる白菜だけが、若者にとっての大切な資金源でした。

 しかし、街で売ろうにも売れず、仕方なく若者はとぼとぼと家に帰ることにしました。


「ああ、この白菜だけが望みだったのに。ちょっと遅かったか。他の農家でも他の野菜が取れなくて、白菜ばっかり売ってるんだ。ぼくが行った時にはみんな白菜は充分だもんな。みんな考えることは同じか」


 他の野菜が育てられず白菜を売りたいのは、どこの農家も同じだったようです。

 若者は兄の家に向かっていました。


「あの兄さんがお金を貸してくれるかわからないけど、行くだけ行ってみよう。ぼくと違って、兄さんは金持ちだからな」


 若者が兄の家を訪れると、玄関まで兄がやってきました。


「おう、どうしたんだ」

「兄さん。ちょっとお願いがあって来たんだよ」

「金は貸せないよ」


 まだどんな頼みかも言っていないのに、兄は最初にキッパリとそう言い放ちました。


「えぇ。まだなにも言ってないよ」

「じゃあ、別の用事か?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

「やっぱりそうじゃねえか。おれはな、金を貸すことを生業にしてるんだぜ? そんなおれが、弟のおまえにだけサービスして利子を取らないんじゃあ、他の客にどんな顔すればいい?」

「ほんのちょっとでいいんだよ。頼むよ、この通り」


 若者が深々と頭を下げるのを見ても、兄はそれを見ようともしません。

 物やお金を貸して、その利子でお金を稼いでいる兄ですから、自分では働かないのにお金持ちです。

 そんなお金に困ったこともない兄には、若者の気持ちはわかりませんでした。

 奥から出てきた兄の嫁も、せせら笑います。


「あら、弟さん。来てたの。めでたい年越し前に、なにが悲しくて頭を下げて回ってんだろうねえ。やだやだ。お金がないって惨めなもんだねえ」

「まったくだ」


 と、兄も笑って、


「とっとと帰んな。おまえがいつまでもここにいると、貧乏が移っちまいそうだ」


 若者は兄の家を出ました。

 大きなため息をつきます。


「はあ、やっぱり貸してくれなかった」


 とうとうお金も尽きてしまい、若者は途方に暮れました。

 家への帰り道を歩きます。


「せめて母さんにうまいもんの一つくらいは食わせてやりたかったけど、我慢してもらうか……。すまないな、母さん……」


 冷たい風がびゅーびゅー吹いているためか、心まで凍えてきそうな気持ちになりました。


「日が落ちかけて、寒くなってきたぞ。早く帰ろう」


 急ぎ足になったところで、強い風に、ぎゅっと目を閉じました。

 また目を開けると。


「おわあああ!」


 目の前には、知らないおじいさんが立っていました。

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