幕間紀行 『ミリングソルト(2)』
「やったー!」
「わーい!」
「楽しみだなー!」
アキとエミとリディオがはしゃいでいるのを、ラファエルは微苦笑しながら眺める。
――ふふ。リディオが喜ぶのはわかるけど、アキさんとエミさんまでこんなにはしゃがなくても。
パッとアキがラファエルに向き直って、
「ねえ、ラファエルくん。行くまでに教えてよ。さっきの続き」
「お願い」
ラファエルはうなずいた。
「その民話が晴和王国から北欧に来たのかもって話だったね」
「うん」と、アキとエミが声をそろえる。
「もし、その民話が超古代世界の話だとしたら。この話は土器精製の技術なんかといっしょに晴和王国から北欧へ伝わった可能性もあるんだ。土器はサツキさんのいた時代より一万五千年以上も前から晴和王国でつくられていたんだ。他の国で文明が起こる前からね」
縄文時代の話である。ラファエルが聞いたところでは、晴和王国はサツキのいた世界では日本と呼ばれていた。
「そして、彼らは国に残っている人たちと海洋民族として世界を飛び回る人たちに分かれて、その技術を世界に広めてくれた可能性がある。土器は水瓶となって、航海中の飲み水の確保に役立つんだ」
「高度な土器精製技術を持った彼らは、それを世界に伝えた。そのとき、北極海を通り抜けて北欧まで行ったと思われるんだぞ」
「海水の関係で、まだ通れたからね。こうして世界中をつないでいた彼らが北欧の人に土器精製技術を教えると、不思議なことが起こった」
ラファエルとリディオの話に、アキとエミは前のめりになっている。
「不思議なこと?」
「なになに?」
「なんと、高温で土を焼くと金属ができてしまった。炉の技術を真似しても、同じにはいかなかったんだよ」
「どうして?」
「間違えちゃったの?」
「やり方は間違えてない。でも、使う材料が変われば品も変わる。同じ料理をつくろうとしても、具材が変われば違う料理になるでしょ?」
「煮魚をつくろうしたら豚の角煮になっちゃった、みたいな?」
「焼き魚をつくろうしたらステーキになっちゃった、みたいな?」
「あるいは、天ぷらをつくろうとしたら唐揚げになっちゃった、みたいな」
と、アキとエミとリディオが比喩を持ち出してくれる。
これにはラファエルも答えに戸惑う。違い過ぎるだろ、と心の中ではツッコミを入れてしまうが話を進める。
「まあ、なんでもいいけどそういうことだよ。これが土器で言えば、当時の北欧の人が使う身の回りにある土はミネラル成分の強いものだった。だから、融点の低い金属が溶け出した。すると、無理して土器をつくるのではなく、冶金技術に転じていったほうが都合がいいってことさ」
「そのおかげで冶金技術が発展したってことだな。そしてそのついでに、民話みたいなお話も伝わったってラファエルは思ったみたいだぞ」
「へえ、ラファエルくん物知り~」
「すごーい」
ラファエルはちょっと照れを隠すように腕組みして、
「石臼ができた時代もわからないし、民話ができるにはまず神話や伝説があってって順序だし、実際にはもっと文明が豊かになってからだろうけどね。ただ、晴和王国と北欧にはそういうつながりがあったってことだよ」
話しているうちに。
ルーチェが部屋のドアをノックした。
部屋に入ってちょっとだけ話をして、それからルーチェは言った。
「それでは参りましょうか。《出没自在》、天都ノ宮」
こうして、五人の姿が部屋から消えた。




