幕間紀行 『ストップバイアート(20)』
メディオラーノは『ファッションの都』と評されるだけあって、店数が多かった。
時間には余裕あるため、一行は存分にショッピングを楽しんだ。
「いろんなお洋服を着られて、みんなで『メディオラーノ・コレクション』をやってるみたいです」
「『メディオラーノ・コレクション』?」
クコの口にした単語を知らないサツキが尋ねる。
「世界有数のファッションショーなんですよ。世界五大コレクションの一つになります」
「へえ。そうなのか」
「ちなみに、他に有名なコレクションは『リパルテ・コレクション』が最大で、アルブレア王国でも『クローディム・コレクション』がありますし、晴和王国では『天都ノ宮・コレクション』があります。あとはメラキアで五つですね」
「と言っても、あくまで流行をつくるためのビジネスの場で、一般市民は直接見ることはできないわ」
と、ルカが解説を加える。
「有名な服飾ブランドの新作発表会ってだけだからね、集まるのはバイヤーとかジャーナリストとかカメラマンってわけよ」
ヒナも斜に構えたように言う。
サツキは「ふむ」と理解した。
「なるほどな。そういえば、みんなは他に見たいお店はあるか?」
「わたしは充分に楽しませていただきました」
「私もサツキの服が買えて満足よ」
クコとルカが答えて、ルカは小声でぽつりと「それに、サツキに見せたい服も買えたしね」とサツキを一瞥する。
チナミは無表情ながらもう疲れているのか、
「そうですね。もういいんじゃないでしょうか」
と言った。
「あたしとチナミちゃんでおそろいの服を三つも買っちゃったもんね」
「はい」
ヒナにも短い返事をするだけのチナミを見て、慣れない買い物に疲れていたのかがわかり、リラとナズナがお礼を述べる。
「付き合ってくれてありがとう。チナミちゃん」
「ありがとね、チナミちゃん。三人おそろいの服も買えて、うれしかったよ」
二人にそう言われて、チナミは優しい表情になる。
「今度、着ようか」
「うん」
ナズナがうなずき、リラが手を合わせる。
「参番隊の三人の隊士服だもんね」
ヒナとリラとナズナが喜んでいるのを見て、
――たまには買い物も悪くなかったかな。
と思い、得意顔になる。
「参番隊おそろいの私服も買ったし、ヒナさんのと合わせて、全部で五着もおそろい」
おそろいの服しか買わなかったチナミだった。
ミナトはなんの感慨もなさそうに、
「僕もサツキとおそろいの服を新調していただいたし、あとで着てみるか。サツキは他に買いたい服はあるかい?」
「俺も充分だ」
サツキはミナトとおそろいの服をクコに選んでもらい、ルカに選んでもらった服はこっそりルカとおそろいになっていて、ヒナと参番隊にも選んでもらった。全部で四着も買ったので、これ以上はいいだろう。
「それじゃあ、少し早いけど『ミノーラ座』に行こうか」
「そうですね。公演は十八時からですし、早めに行ってオペラ・ハウスの空気を感じるのもいいと思います」
何気なく言ったクコの言葉に、サツキはナズナを振り返った。
「?」
急にサツキに見つめられて、ナズナはわずかに首をかたむけてサツキを見上げた。
「最近、《波動》について研究してるんだ」
「はい……」
「その場所に行って空気を感じるだけでも、《波動》は高まるんじゃないかと考えてる。だから、行くだけ行ってみよう」
「空気を感じる、だけでも……? は、はい」
「俺の予想が正しければ、オペラ鑑賞中に寝ててもナズナの《波動》は高まるぞ」
思ってもみなかったことを言われて、ナズナは一瞬ぽかんとして、それから顔をふにゃっとさせて笑った。
「ふふふ。お、起きてますよ」
「ふ。それがいい。目を開けてるほうがもっと《波動》は高まるだろうからな」
「はい」
「俺の研究のためにも、ちょっとナズナを観察させてほしい。いいか?」
「あ、えっと……はい」
照れてもじもじするナズナ。
だが、すっかり変な気負いも不安もなくなっているように見える。
リラはそんな二人を見て、さみしいようなうれしいような、不思議な気持ちになる。
――サツキ様。この会話だけで、もうナズナちゃんを安心させて、リラックスさせてる。ナズナちゃんも、うれしそう……。




