幕間紀行 『ストップバイアート(16)』
言葉ではわかりにくくても、触れ合うとわかることもある。
こうしてくっついてみて、少しナズナの気持ちの和らぎがリラには感じられた。
――今のナズナちゃん、あったかくてホッとする感じになってる。よかった。
後ろから抱きしめたまま、
「本当はもっといろいろリサーチして、ナズナちゃんとチナミちゃんとサツキ様にお話ししてあげたかったんだけどね、リラ、今回は美術館しか調べられなかったよ」
と苦笑交じりに言った。
「いつも、リラちゃんは行くところ調べたりして、すごいよね」
「楽しみなんだもん」
――それに、リラといる時間を楽しんで欲しいから。
むしろそっちのほうが大きな理由かも、なんて思ったりする。
自分が楽しみなのはもちろんだが、それ以上にリラといる時間を楽しんでもらいたい気持ちのほうが強いかもしれない。
「リラちゃんは、えらいなぁ」
「ふふ。そんなことないよ。全然そんなことない」
「?」
ウキウキしながらリサーチするとき、リラはいつも相手の喜ぶ顔と楽しそうにする姿を思い描いている。
でも、その相手が……たとえば、サツキやナズナが自分を見てくれたときの笑顔が浮かんだとき、リラはリサーチする時間の中で一番の幸せを感じられる。
――リラはリラのために、リラといる時間を楽しんで欲しい。だから半分以上は相手より自分のためなんだよ。だから全然偉くなんかないの。
だからそんなことないと言うのだ。
リラはベッドの上に座って、
――いつもリラにナズナちゃんの笑顔を見せて欲しい。でも……今は、心配のほうが強いかな。
そしてリラは笑顔をつくった。
「明日はいっぱい楽しもうね」
「うん」
と、ナズナも起き上がる。
「そろそろ寝よっか」
「もういつもの寝る時間だね」
ナズナが時計を見て、リラはベッドから下りて洗面所に身体を向ける。
リラはくるっとターンした。
「楽しみですぐには眠れないかもだけどね」
「うふふ。リラちゃん、ほんとに楽しそう」
「だってこんな機会なかなかないもん」
「この旅で美術館に行けるの……あとは、シャルーヌ王国のリパルテくらいかもしれないもんね」
「あそこは『芸術の都』だから、公開実験が終わったあとに行けたらいいよね」
「サツキさんが、予定を立ててくれると思う」
「だといいな。他にはもう美術館に行くチャンスはないだろうし、まずは明日。リラ、気合が入っちゃう」
「いろんな作品が見られるといいね」
「うん、ありがとう。ナズナちゃんはやっぱり、オペラが待ちきれないかな?」
「そうだね。オペラは、ちゃんと見ないと」
ちょっと真剣な顔になってそう答えるナズナを見て、リラは改めてナズナの気持ちを考える。
――なんだか、また気が張っちゃった……? やる気とはちょっと違って、使命感、みたいな……。ナズナちゃん……。




