幕間紀行 『ストップバイアート(11)』
翌日。
ナズナは士衛組のみんなと美術館に行った。
美術館では、昨日よりも絵に集中できなかったが、玄内に言われた通り、なんにも考えないでただ見て回った。
途中、何度かサツキの視線を感じたことがあった。
いつもサツキはみんなことをよく見てくれているし、局長としてそうしているのだろう。
ナズナを見るのも少しだけで、それはいつもと変わらないのかもしれない。しかし今日は気になってしまう。いや、常にサツキの視線は気になっているけれど、今日の気になり方は少し違って、自分におかしなところがないか変に意識してしまった。
「ここもステキな絵がたくさんある美術館だったね」
「うん」
リラとしゃべりながら美術館を出て、ナズナはサツキを見てみる。だが、サツキに変わったところはなかった。
逆に、リラもナズナを気にかけていた。
――ナズナちゃん、今日はちょっと元気がなかったな。美術館でも心ここにあらずって感じだった。
落ち込んでいるのか、怖がっているのか、なにか悩み事があって他のことが考えられないのか。
原因はわからないが、ナズナの元気がない。
――ナズナちゃんはリラよりも芸術の才能があって、絵だってのびのびしてる。リラよりも感覚を大事にするタイプ。そんなナズナちゃんだから、もっと目の前の絵を感じて欲しかったけど……今は、待ってあげたほうがいいのかな?
いとこで同い年だからこそ、リラはナズナとは単なる友だち以上に理解し合える特別な関係に思っているが、結局リラはナズナじゃないし、わからないことのほうが多いのかもしれない。
ただ、今はナズナを元気づける意味でも笑顔でそばにいようと思った。
「次に行くのは、ヴェリアーノ。『水の都』だよ」
「お水がきれいな街なんだよね」
「うん。リラ、行くの初めて。楽しみだね」
「そうだね」
少しナズナの表情がほぐれたように見えて、リラはうれしくなった。
『水の都』ヴェリアーノ。
そこは、水路の整備された街。
美しい街並みは水の恵みをうまく活用しているおかげで、ゴンドラと呼ばれる小舟が人や荷物を運んでくれる。
ナズナが知るどこの街とも異なる文化だ。
「わぁ、きれい……」
感動しているナズナと同じくらいに、リラも目を奪われていた。
「フィオルナーレとは全然違う美しさ。なんだか感動しちゃうな」
「水がきらきらしてて、ゴンドラもかわいくて、いいところだね」
「うん。人の営みと自然が合わさった美しさに、リラはこの街が愛おしくなっちゃった」
「愛おしい?」
「どんな街にもそれぞれの良さがあるけど、人の暮らしが美しく見えるって、ステキじゃない?」
「そっか。そうかも」
ヒナの説明を聞いていたチナミもやってきて、遠くを指差した。
「もうすぐ夕方。空も変わってくるよ」
「ロマンチック」
「うん」
参番隊の三人がヴェリアーノの景色を感激している横で、ヒナは得意げに胸をそらす。
「あたし、この街も何度か来てるからわからないことがあったら聞いてよね」
「ヒナさん、ゴンドラにはどうやって乗れますか」
さっそくチナミがゴンドラに乗りたがり、「え、ただ馬車とか人力車に乗るのといっしょだよ。目的地を言うの」と教えている。
リラも興味津々で、
「ナズナちゃん、乗ってみたいね」
「うん」
このあと、士衛組は宿までをゴンドラで移動して、水上から夕陽を眺めたのだった。




