幕間紀行 『ストップバイアート(9)』
リラの絵はチナミによってサツキの元に持っていかれた。
サツキはリラの絵を見て瞳を大きく開いて微笑した。
「まさかこんなに綺麗な絵を描いてみせるなんて思わなかったよ。今日は相当刺激を受けられたみたいだな」
「はい。ありがとうございます」
嬉しそうなリラの顔を見て、ナズナはまたリラに差をつけられた気持ちになる。
実力の差、という意味では今までそれほど感じたこともなかった。
意識してこなかった。
しかし自分のために立ち寄ってくれた街で、なにか成果を出したいと思っているからこそ、こんな気持ちになってしまったのだ。
チナミはサツキに言う。
「ナズナも歌が芸術になってました」
「そうか」
サツキは嬉しそうにナズナに顔を向けた。
が。
ナズナはリラと比較しているせいで自信が持てなくなっていて、サツキと目を合わせられない。
「わ、わたし……は、まだまだ、です」
ここでも、リラはナズナの変化に気がついた。
「?」
なにか変なのに、どうしてナズナの様子がおかしいのか、どうおかしいのかが解明できない。
サツキもなにか引っかかったのかもしれない。
「向上心は良いことだけど、ナズナはすでにとても良い歌を歌える」
そう言っただけで、ここで歌ってくれとまでは言わなかった。
「が、がんばり、ます」
このあと、サツキは明日もあるから遅くならないうちに寝るようにと言って、三人は部屋を出た。
チナミはリラに言う。
「リラ。先生には見せておいたほうがいい。こんな絵が描けるようになったってわかれば、アドバイスももらえるかも」
「うん、わかった」
「ナズナの歌も先生に聞いてもらってもいいと思うけど、どうする?」
チナミに聞かれて、ナズナは首を横に振った。
「今は、いいかな」
「了解。じゃあ、行こう」
参番隊の隊長はリラだ。
だが、将棋が得意で戦術面に長け行動力もあるチナミが参謀としてみんなを引っ張ることも多い。
チナミを先頭に三人は玄内の部屋に来て、リラの絵を見せた。
玄内は元からリラには甘いところがあるが、この絵も素直に褒めてくれた。
「随分といい絵を描いたもんだぜ」
「ありがとうございます」
「レオーネの《発掘魔鎚》じゃ引き出せねえ部分だな」
才能を引き出す《発掘魔鎚》。
これは本来その人が持っている才能の階段を一段上らせてくれる魔法で、士衛組はマノーラにいる間、毎日一段ずつ使ってもらった。一人一日一回という制限のためだ。
だが、《発掘魔鎚》では見識が広がらない。
今日のような機会があって初めて才能が開く場合もある。
「リラの描く絵には、もっといろいろ可能性もありそうだ。リラ、これから描いてみたいと思ったらなんでも一度描いてみろ。使ったことのない技法を試してもいい。描きたいと思った場合じゃなくとも、閃くものがあれば描いてみるとまた発見があるかもしれねえ」
「はい。わかりました」
「フ。しかし、これを見てサツキは喜んだだろ」
玄内に言われて、リラは力強くうなずいた。
「はい」
そして。
三人が玄内の部屋を出るとき。
玄内はナズナを引き止めた。
「ナズナ。ちょっといいか」




