幕間紀行 『ストップバイアート(7)』
「波動、波動……」
穴が空くほど見て、目の前の絵から波動を受け取ろうとしてみる。
しかし、ナズナはその感覚がわからなかった。
――波動、受け取り方、わからないよ……。
そうしていると、今度はリラが追いついてきた。
「ナズナちゃん、その絵、気に入ったの?」
「えっと、そうじゃないんだけど……」
「綺麗な絵だね」
「うん」
リラが目を光らせながら絵を見ているのを一瞥して、ナズナは聞いた。
「ねえ、リラちゃん。この絵は、どんな絵なのかな?」
「そうだなあ。貴族の人を描いているみたいだけど、宗教画じゃなさそうだね。身近な人を描いた絵かもしれないよ」
「? そうなの?」
「なんとなく、そう思っただけ。なんだか、落ち着いていてやわらかい表情しているから、リラックスしてるのかなって」
「そっかぁ……」
思っていたのと違う解説に、ナズナはちょっと驚いた。
――もっと芸術のこと、詳しいと思ってたけど、リラちゃんも知らないことあったんだ。
そういえば、さっきまでいっしょに回っていたときも、特別難しい解説はなかった。
「綺麗な風景画だね。どこの川だろう」
とかが大半で、たまに有名な絵について教えてくれたり、色の塗り方や画法を話してくれたりした程度だった。
「みんな先に進んじゃったし、リラたちも行こう?」
「うん」
残っていたのはナズナとリラだけだった。
二人も次のエリアに移動する。
そこでもナズナは最初だけリラと見て回って、途中からリラのペースが落ちると自分は先に行った。
――どの絵も綺麗だったけど、リラちゃんみたいに夢中になれてないな……。夢中になる絵とか、学びになる絵とか、どうやって見つけたらいいんだろう。
少しの焦りと期待に応えたいというやる気で絵を見ていって、ナズナはチナミとヒナを発見した。
二人はなにか話している。
「わかんない」
「……」
チナミがちょっと不満そうな顔をして、
「きっと、ナズナならわかってくれる」
と言った。
ナズナが二人の元へと歩いて行くと、チナミが良いところに来たと言いたげに、絵を指差して急に言った。
「アリコレさん」
突然なにを言われたのかわからず、ナズナは絵を見て考える。それもたったの一秒考えただけで思い当たった。
「ふ」
可愛らしく噴き出して、ナズナは口を押さえる。美術館だから騒がしくしてはいけないので、静かにしようと思ったのだ。
でも笑ってしまう。
「似てる」
「だよね」
チナミは満足そうだった。
「王都の人ってこと?」
リラがやってきてチナミに尋ねた。どうやら会話が聞こえていたらしい。
「そう。似てる」
「うん」
ナズナもうなずいて、リラはくすくす笑った。
「ふふふ。チナミちゃんったら。よく見つけるね」
「言われないと、気づけないよ」
と、ナズナもおかしそうだった。
チナミはヒナにどんなもんだと言いたげにしているが、リラはナズナの笑顔が見られてなぜかホッとしていた。
――よかった。ナズナちゃん、いい顔になった。さっきまで難しい顔してたから、どうしたんだろうって思ってたけど、今は大丈夫そうだね。
リラはナズナに耳打ちする。
「ナズナちゃんも、面白い絵を見つけたらリラに教えてね」
「え」
予想外なことを言われて、ナズナは目をパチクリさせて、それから笑顔でうなずく。
「うん」




