幕間紀行 『ストップバイアート(6)』
美術館はオペラ鑑賞とはまた違った荘厳さや美しさがあった。
士衛組はそれぞれがそれぞれに見たい作品を見て回り、ナズナは基本的にリラと歩いていた。
「この絵、ステキ……」
リラがうっとりと見つめている絵は、本当に綺麗だった。
ナズナもついぽーっと眺めてしまうほどで、しかしまだ絵の虜になっているリラみたいには留まらず、先に行くことにした。
人物画や風景画、抽象画など多岐に渡る絵の数々を目にして、ナズナは美術の奥深さを思う。
「どの絵も、綺麗……でも、わからない、な」
「なにがわからないんだ?」
サツキに聞かれて、ナズナは答える。
「え、サツキ……さん?」
絵に見入っていたからか、サツキが隣にいたことに気づかなかった。いつからいたのだろうか。
びっくりしているナズナの横で、サツキは絵を見ている。
「な、なんでも、ないです」
その声を聞いて、サツキはナズナに目をやった。
思わず、ナズナは目をそらす。
――わ、わからないのは、芸術って、なんだろうってことなんだけど……そう言ったら、サツキさんを幻滅させちゃうよね。せっかく、連れてきてくれたんだもん……。
ナズナのそんな様子を見て、サツキは視線を外して考える。
――邪魔をしてしまったかな? 今はそっとしておいたほうが、いいだろうか。なにか、言いにくそうにしていたしな。いつもの綺麗なナズナの声の波動も少し乱れていたし……。
これにはサツキもどうすればいいのか迷って、
「そうか。俺が見ても、どの絵からもなんだか高い波動を感じる。高いというか、良い波動と言ったほうがいいだろうか」
と言った。
――リラは絵を見るだけで《波動》が高まっている感じがする。おそらくだが、絵を見なくても、絵の前にいるだけで、リラの《波動》は高まる。それは、良い波動を持つ絵や、あるいは高い波動を持った人が描いた絵には、そういう力があるから。だから、ナズナもここにいるだけで良い影響を受けられる。なにがわからないのかは、俺にはわからない。でも、今ここいることが、ナズナのプラスになる気がする。
それは、サツキがこれまで意識してこなかった《波動》の仕組みであり、マノーラで過ごした期間がサツキに及ぼした感覚の活性化の結果でもあった。
――《波動》はどんな人にもある。その《波動》には、俺が知らない秘密がまだまだあるらしい。あとで先生にも聞いてみよう。できれば、『波動使い』オウシさんにも。
サツキが《波動》の魔法を習得したのは、レオーネが使った《波動砲》を見たことがきっかけだった。《緋色ノ魔眼》によって魔力が波動に変質して放たれるのを目の当たりにして、修業したのだ。
だが実は、この《波動砲》はレオーネがオウシから盗んだコピー技で、本家本元はオウシの《波動》であった。
ただ、オウシに聞く機会はすぐには来ないだろう。
「見るだけじゃなく、波動を受けられるいい機会だ。ナズナもゆっくり見ていていいからな」
「は、はい」
サツキが《波動》を使えることは、ナズナも知っている。
《波動》はどんな人にもあるもので、サツキはそれを視認することもできるのだ。詳しいことはナズナにはわからないが、サツキは《波動》によっていろいろなものを感知できて、ものすごいパワーを引き出すことができる。
しかしナズナにその《波動》がなんなのか、ピンとこない。
――波動を受ける? どういうこと、だろう……。
返事をしたが、意味は理解できなかった。
高い波動。
良い波動。
それを感じ取ることはできない。やり方もわからない。けれど、サツキの優しさを受けて、急がず回ることにした。リラはナズナよりもゆっくり見ているし、今日は夕食までこの美術館で過ごせる。
ナズナはじっくりと次の絵を見つめた。