幕間紀行 『ストップバイアート(3)』
食後、士衛組はオペラ発祥の地を目指した。
その途中にも、フィオルナーレを代表する聖堂や鐘楼、広場、橋など、街並みを見て観光した。
都度都度、リラはスケッチブックを取り出して絵を描いた。
「あっという間に描き上げて、すごいな。でも、急がなくてもいいんだぞ。リラ」
サツキは感心しながらもリラにそう言った。
「いいえ。ナズナちゃんにもらった鉛筆があるので、スピードも任せてください」
「ステキな絵です。さすがですね、リラ」
姉に褒められて、リラは笑顔を返す。
「ありがとうございます。お姉様」
「リラをこの街に連れて来て正解だったわね」
ルカがリラの絵を眺めて、サツキに視線を送る。
「うむ。刺激ももらえているみたいだし、すでに良い経験になっているように思う」
「はい。リラもとっても勉強になっています。みなさん、ありがとうございます」
「寄った甲斐があったってもんだぜ。まあ、時間もある。じっくり見ていくか」
玄内はリラに甘いところがある。それは、玄内は優秀な医者でもあり、アルブレア王家である青葉家ともつながりがあって、昔は身体の弱いリラをよく診ていたからでもあった。
だから、玄内は士衛組の中だとリラにだけは甘いのだ。
リラがみんなに囲まれて、絵の勉強も充実している姿を見て、ナズナはふっと不安になる。
――リラちゃん、すごいな……。わたしは、まだ、なにも学べてなくて、全然なのに……。
その不安を察してか、チナミが声をかけてくれる。
「ナズナ」
「ん? チナミちゃん」
「オペラ、楽しみだね」
平素からチナミは口数が少なく、表情も乏しい。クールとも言えるし、人によっては感情の読めない無表情とも取られるかもしれない。だが、人一倍よく考える子で、行動力もある。そして、幼馴染みのナズナのことはよく見てくれている。
「う、うん」
「そういえば、ナズナちゃんはオペラって見たことある?」
ヒナが聞いた。
出会った頃から、ヒナはクコやルカには対抗意識を見せたりひねたところもあるが、ナズナには優しく面倒見がよかった。ヒナもチナミとは幼馴染みで、チナミのことは妹のように可愛がっているから、その友だちのナズナのことも良くしてくれるのかもしれない。
「ないよ。王都で、昔、やるってなったときも、見られなかったの」
「王都にはいろんな公演が来るけど、意外とオペラはあんまり来たことなかったかも」
と、チナミも言った。
「じゃあいい機会じゃん。ナズナちゃんは歌う魔法が使えるんだし、なにかつかめるといいね」
「だね」
ヒナとチナミに元気づけてもらって、ナズナは「うん」とうなずいた。
しかし、二人もそういうチャンスがあればいいねという意味で言っただけでも、ナズナにはプレッシャーにもなってしまっていた。
――わたしも、リラちゃんみたいに……。
リラは嬉々と街並みに目を走らせる。
「フィオルナーレはどこを見ても絵になって、楽しいです」
「うむ。よく見ておこう。それに、美術館の古典芸術が本番だからな。はしゃぎすぎて疲れないようにしないとだぞ」
サツキが優しく微笑し、リラは嬉しそうに答えた。
「はい」
そして、ナズナはそんな二人を見てつぶやく。
「今日、なにか、ひとつでも見つけたいな……」