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121 『フェアウェル』

 ヴァレンはサツキにひと言。


「好きなだけ無茶して頑張りなさい。男の子はそうやってもっとステキになるのよ」

「が、頑張ります」


 言われたことのないセリフに戸惑ったが、サツキはすぐ前向きにその言葉を受け取った。

 サツキは帽子を手に取って、帽子の中に手を入れる。そこから二冊の本を取り出した。


「アシュリーさんは絵画も好きだと聞いていたので、これを」

「わぁ、ありがとう。サツキくん」


 本を受け取って、表紙を見るアシュリー。


「大切にするね」

「はい」


 アシュリーは喜んでくれた。

 今度はサンティに本を渡す。


「サンティさんは学者になるのが夢なんですよね。これ、よろしければどうぞ」

「物理学の本? ありがとう!」

「著者は、そちらにいる浮橋教授です」

「え、そうなの?」


 サツキが目線を浮橋教授にやると、サンティもそちらに目を向ける。浮橋教授がいることに気づき、


「ほ、ほんとだ!」


 と驚いた。まさかこんなところに浮橋教授もいるとは思っていなかったらしい。今、浮橋教授の存在に気づいたようだった。

 こそっと、アシュリーがサツキに耳打ちする。


「実はね、お兄ちゃん、浮橋教授に憧れてるんだ」

「そうだったんですか」


 うん、とアシュリーは微笑む。


「あの。よ、よかったら、サインをいただいてもいいですか」


 サンティが浮橋教授に申し出ると、


「いいよ。ぼくのサインなんかでよければ」

「おれ、ずっと浮橋教授を尊敬してて……」


 本にサインを書いてもらって、サンティは感激していた。

 もらったばかりの本についても、「この本、今は売ってないですよね? おれ、浮橋教授の本はたくさん読んできたんですけど、これはまだで……」と語っている。


「気になったことがあったら、いつでも聞きにきていいよ」


 浮橋教授がそう言うと、ルーチェが横からサンティに教えてあげる。


「サンティ様。浮橋教授には、公開実験が始まるまでの間、安全のためにもここロマンスジーノ城に留まっていただく予定です。いつでもお越しください」

「あ、ありがとうございます」


 アシュリーはそんな兄の姿を見て、サツキとヒナに笑顔で、


「ありがとう」


 と改めてお礼を述べた。

 また、ミナトがシンジに巾着を渡した。


「シンジさんもどうぞ」

「これは?」

「《魔力菓子》が入ってます。ヨウカンです。試合のときとか修業のとき食べてください」

「ありがとう!」

「いえいえ。創ってくださったのはバンジョーさんです」

「おう! オレが創ったぞ!」


 バンジョーはあっけらかんと笑っている。

 巾着の中には保存の利くヨウカンが十個以上も入っているのに、バンジョーは得意になってシンジの目の前でも《魔力菓子》を創って渡していた。

 さらに、バンジョーはグラートにビシッと頭を下げて、こちらにも《魔力菓子》を渡していた。


「いろいろ料理のことを教えてくれてありがとうございました。お世話になりました。これは気持ちッス!」

「楽しかったですよ。またいっしょに料理を作りましょう」

「押忍!」


 それから、リラが本を開くと、そこから絵が出てくる。ヴァレンとルーチェにそれを渡した。


「ヴァレンさん、ルーチェさん。お二人のために描きました。受け取ってください」

「あら、ステキ」

「ピアチェレンカですね」


 チェレンカという花は、マノーラではよく育てられており、マノーラの象徴にもなっている。特に黄色のチェレンカをピアチェレンカというのだ。

 花言葉は、『再会の喜び』と『つながる友情』。

 リラがマノーラにやってきて、ヴァレンとルーチェに再会したとき、二人がこの花をくれたのだ。


「また会えることを願っています」

「ありがとう。嬉しいわ」

「綺麗な絵ですね。大切にしますね。ありがとうございます、リラ様」


 ヴァレンとルーチェが喜んでくれたので、リラはサツキとアイコンタクトを交わして微笑み、サツキが言った。


「それでは、俺たち士衛組も出発しますね。いってきます」

「良い旅を。チャオ」


 優雅にウインクしてみせるヴァレンに、ミナトが手を振り、サツキは会釈して、クコとリラはきれいなお辞儀をした。

 最後に、ヒナも深々とお辞儀をした。そして、父に向かって笑顔を見せる。


「じゃ、いってくるね」

「うん。いってらっしゃい。また、リパルテで」

『イストリア王国編 ウィッチトライアル』を読んでいただきありがとうございました。

 今回はヒナの回想から始まり、ヒナの辿った道がサツキと交わって、現在に至るまで、そしてヒナの父・アサヒの裁判を描かせていただきました。

 しかしヒナを待ち受ける環境は過酷で、負ける直前のところまでいってしまい、なんとか決着を先延ばしにすることができました。


 次回のシャルーヌ王国編では、ヒナたち士衛組による公開実験が行われます。

 それに伴い国王・フィリベールや大臣のディオンなども登場します。フィリベールは少し変わり者になるので書いていて楽しいキャラクターです。新キャラクターにも注目しつつヒナの公開実験と最後の裁判を応援してもらえたら嬉しいです。

 ぜひ続きも読んでください。


 また、外伝として幕間も少し書きました。シャルーヌ王国に入るまでの間のイストリア王国でのお話になります。そちらも読んでもらえたら嬉しいです。


 今後ともどうかよろしくお願いいたします。

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