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120 『トークンオブフレンドシップ』

 次にサツキは、レオーネとロメオに向き直った。ミニカーを取り出して、左右の手でそれぞれレオーネとロメオに差し出した。


「レオーネさん、ロメオさん。俺がいた世界には、こういう形をした自動車というものがありました。馬車の代わりに、移動に使います。エンジンという機械的動力が搭載されているんです。それをブリキでつくったおもちゃです」

「お二人は機械が好きなようでしたので、ほんの気持ちです」


 これをプレゼントしようと言ったのはクコだった。

 外交としてやっているわけではなく、これからもこの士衛組を助けてくれるであろう二人に友好の印としてプレゼントとしようと思ったのである。こういうところが、クコが天然に持っている政治力だった。

 なぜなら、レオーネとロメオは、ヴァレンと違って士衛組の附属隊士でもないからだ。

ASTRA(アストラ)』の首領のヴァレンだけが士衛組に属するという不思議な形式であり、レオーネとロメオは関係がないとも言える。

 しかし、実際にヴァレンの代わりに組織を運営することも多いレオーネとロメオとは、場合によってはヴァレン以上に会う機会が多くなる。

 こうした友好関係はとても大事なのである。

 ミニカーを受け取ったレオーネとロメオは子供のように目を輝かせた。


「ありがとう! なんだろうこれは! すごい! 前にサツキくんが言ってた自動車ってこんな感じなのか」

「か、かっこいい……! ありがとうございます」


 レオーネが素直に気持ちを昂ぶらせて喜んでいるのと同じく、普段はクールなロメオも少年のようなキラキラした笑顔が浮かんでいた。

 元々、サツキはこの二人とはガンダス共和国で出会っていた。

 そのとき、サツキはレオーネとロメオにサツキの世界の科学技術の話もしていたのだが、マノーラで再会してからまた話が弾んで、自動車の話を二人は喜んで聞いていた。


「いいないいなー! ロメオ兄ちゃん、かっこいいぞそれ!」


 リディオもロメオとそっくりの顔になっている。

 ラファエルが斜に構えたように横目で見ていると、クコがラファエルの前にも手を差し出した。その手には、ミニカーがある。もう片方の手はリディオへ差し出される。こちらにもミニカーがあった。


「ラファエルさんとリディオさんにも。ミニカーです。どうぞ」

「わーい! ロメオ兄ちゃんといっしょだー! やったー! やったー! ロメオ兄ちゃんといっしょだぞー!」

「リディオ、はしゃぎすぎ」


 踊り出さんばかりに喜ぶリディオが、ぐるっとロメオの周りを駆け足で一周して大好きな兄の腰に抱きついた。ラファエルはリディオに注意しつつも、遠慮がちにクコの手からミニカーを受け取ると、まじまじとミニカーを見る。

 ロメオはリディオの頭に優しく手をやり、


「よかったな」

「おう! サイコーの気分だ」


 ニッと歯を見せるリディオに、ロメオは言った。


「ほら。クコさんにお礼を言いなさい」

「そうだったな! ありがとう!」

「あ、ありがとうございます」


 と、リディオが先にお礼を述べ、照れたような様子でそれに続くラファエル。二人を微笑ましげにクコは眺める。

 玄内は自作のミニカーについて四人に解説する。


「そこが運転席で、足下の板を踏むとこいつが走り出すんだ。で、このハンドルで運転する。ハンドルを回すと曲がる仕組みだな」

「こういうものらしいです」

「後ろにも、席があります……」


 リラとナズナが自動車と運転席や後部座席に座る人間を絵に描いたものを見せた。


「うおー! すごいなー!」


 と、リディオが絵とミニカーを見比べている。

 スケッチブックに描いた絵を、リラがレオーネに渡す。


「よろしければ、こちらもどうぞ」

「宝物にします」

「おぉ……」


 誕生日プレゼントをもらった小学生のような輝かんばかりの喜色に満ちたレオーネと、夢中になってミニカーとリラの描いた絵を見ているロメオとリディオがそっくりで、ラファエルは興味深そうに絵を見ている。そんな四人を見ていると、サツキの表情も思わずゆるむ。

 レオーネとロメオの二人は、この日もらったミニカーを参考に、この世界で自動車というものを開発することになるが、それはあと少しだけ先の話である。

 魔法世界における次になる産業革命の足音は、そういった意味でもすぐそこまで来ていた。

 リディオはさっそく地面にミニカーを置いて「ぶーん」と走らせて、「なんだこれはー!」と楽しそうに笑っている。


「本当に走れるぞー! やったー! いけー!」

「手で動かしてるだけじゃないか」


 冷静に指摘するラファエルだが、ミニカーの造りには感激したようで、


「ほら。あんまり雑に扱うと傷がついちゃう」


 とリディオのミニカーのことも心配していた。

 ヴァレンは、レオーネとロメオの頭にぽんと手をやって、


「よかったわね」


 と慈しむように言った。

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