118 『ストロンゲストナイト』
ジェラルド騎士団長は語る。
「ここイストリア王国では、我らアルブレア王国騎士はブロッキニオ大臣から指令を受けて行動してきました。それはずっと前からです。ただ、少しだけ体制が変わったのは少し前のこと。ブロッキニオ大臣との間に、人が入るようになりました」
人。
それが問題なのだ。
「その人物というのが、常子澄という男です」
「常子澄……なるほど」
クコは感情を見せずにつぶやいた。
ジェラルド騎士団長は続ける。
「その者はブロッキニオ大臣にとっては特殊な位置づけにあり、側近のユリシーズと違って外から来た通信士でもあります。彼は黎之国の人間です。彼について詳しいことは知りませんでしたが、我々は彼の命令に従っていました。それはそのままブロッキニオ大臣の命令であり、ローズ国王の命令だと考えていたからです」
つまり、ジェラルド騎士団長はすべてを信用していたのだ。
ローズ国王を信頼しているからこそ、ローズ国王の名の下にブロッキニオ大臣が命令をしてもそれがローズ国王の声だと信じたし、その体制でずっとやってきて問題がなかったからこそ、そのあとを引き継いで橋渡し役を務めていた常子澄も信じてしまっていた。
「彼……常子澄は、王女姉妹は士衛組という悪の組織にそそのかされ、国王に刃向かって争いを起こそうとしていると言いました。アルブレア王国の中でもそうした噂はあるようです」
こんな根も葉もない噂を言い出したのがブロッキニオ大臣たちなのだから、アルブレア王国の中で広がっていっても不思議じゃない。
「我は半信半疑だった。だが、愚かにも半分は信じてしまっていたのです。ゆえに、我は橋渡し役・常子澄に言われて士衛組から王女姉妹を守るため、このたび兵を挙げたというわけです。今はハッキリと目が覚めました。申し訳ございませんでした」
「いいえ。仕方のないことです。ジェラルド騎士団長、他になにか知っていることはありませんか?」
「今回聞かされたのは、このマノーラでの我らアルブレア王国騎士の役割です。また、同盟相手としてのサヴェッリ・ファミリーについてのみです。それ以外にはなにも」
「そうでしたか」
「ただ、我からお話できることは他にもあります。グランフォードについてです」
「それは興味がありますねえ」
キラリと、ミナトが瞳の奥を光らせた。
「もしや、あなたが戦うつもりですか」
「ええ。僕以外にいませんからね」
自分が出ていって戦う気でいたジェラルド騎士団長だったが、ミナトの瞳を見て考え直す。
――元々、我はグランフォードに関して知ることすべてを士衛組に教え、彼らがやつと戦わぬよう説くつもりだった。グランフォードだけは味方につけよ、と説くつもりだった。そして、それでもグランフォードが敵に回ってしまったときには、我が命を賭けて自ら剣を振るつもりでいた。だが、我にも勝ったこの少年なら、あるいは……。
ジェラルド騎士団長は息を吸って胸をふくらませ、力強くミナトを見つめて告げた。
「負けた我が言うのもなんだが、正直に言ってあなたはまだまだ実力不足です。グランフォードの強さは他に類を見ぬほどだ。グランフォードは最強の騎士です」
「わかっています。今回の戦いだって、僕はサツキと二人だから勝てた。辛うじて負けずに済んだのでしょう。しかし、僕はまだまだ強くなる。そして、あの方とは僕一人で戦う」
刺すようなジェラルド騎士団長の視線にも、ミナトの瞳は微塵も揺らがない。
その強さを見て、ジェラルド騎士団長は言った。
「これから言うことは、我がグランフォードと競い合った頃の話です。今のグランフォードではない。それでもよければ、お話しします」
「ええ。ぜひ、よろしくお願いします」
ミナトがぺこりと頭を下げ、ジェラルド騎士団長は力強くうなずき、グランフォードについて語ったのだった。
……三十分後。
ジェラルド騎士団長はすぐに城を出た。
そして――。
士衛組と『ASTRA』、そしてアキとエミによるパーティーはそのあとも続き、ロマンスジーノ城で過ごす最後の夜は更けていった。




