116 『プリンセスフェイス』
クコとリラは、ジェラルド騎士団長の挨拶にぱたぱたと駆け寄って、これに応じた。
「ご無沙汰しております。起こしいただきありがとうございました」
「ありがとうございました。よろしくお願いいたします」
忠誠を示すジェラルド騎士団長の姿に、クコとリラも丁寧に挨拶を返した。
「かくもご立派になられて。我は嬉しく思います」
「最後にお会いしたのは、もう三年も前になりますね」
「はっ」
当時、クコは十一歳。
リラに至ってはまだ九歳である。
感無量といった様子のジェラルド騎士団長に対して、クコが労いの言葉をかける。
「アルブレア王国を離れ、ルーン地方で軍務に政務に励んでいただいて、感謝に堪えません。今回のことを除いて、他になにか変わったことなどありませんでしたか?」
「はっ。変わりなく務めておりました。しかし、やはり今回はおかしかった。そして、クコ王女とリラ王女の姿を見て、お二方の無事を知ることができて安心しました。すでに彼ら二人から話は聞いておりましたが……」
と、サツキとミナトを一瞥し、クコとリラに視線を戻す。
「直接、クコ王女とリラ王女からもお話をうかがいたいと思っております」
「もちろんです。こちらからもぜひお願いします」
クコとリラは、ジェラルド騎士団長とは正面にきて向き合う形で腰を下ろした。夕食の席でのことだから、目の前にはご馳走もある。
「お食事はまだですか?」
グラートに聞かれて、ジェラルド騎士団長は答えた。
「はい」
「それでしたら、どうぞ召し上がってください」
「遠慮はいりませんよ? ジェラルド騎士団長」
ヴァレンも美しい手の動きで促した。
リラもにこっと微笑んで、
「そうです。とってもおいしいですよ」
「はっ」
頭を下げるだけで手をつけないのは、ジェラルド騎士団長の生真面目さと忠誠心によるものだろう。
クコはジェラルド騎士団長の様子を見て取ると、さっそく本題に入った。
「それでは、まずはわたくしのお話から聞いていただけますか?」
サツキはクコの王女らしい佇まいに、なんとなく別人を見るような、あるいは別の顔を見たような感じを受けた。いつも背筋が綺麗に伸びていて、清楚ながら力強く、それでいて包み込むような柔らかい物腰のクコだが、今日は特段、凛としている。
――わかってはいたけど、クコはやっぱり王女なんだな。
高貴さの中にある親しみやすさにクコの性格をうかがうことができるが、いつもより王女の顔をしたクコを改めて発見した思いだった。
これまで、クコはサツキの前でも何人ものアルブレア王国騎士たちと対面してきたが、クコがちゃんと顔を知っている者はほとんどいなかったのもあるだろう。今回、王女であるクコと対面が叶うほどの人物が初めて現れたとも言える。それがジェラルド騎士団長だったわけだ。ひるがえって、サツキはジェラルド騎士団長が国の重要人物であることも改めて実感した。
それに対して、リラはクコに任せて隣に座っている。控えめにしているためか、こちらはいつもの深窓の令嬢を思わせるリラのままだ。あくまでクコに国の代表としての立場は譲り、自分は一歩後ろに下がって話を聞く構えだった。
かくしてクコが順を追って話していき、自身が旅立つに至った経緯から、サツキが召喚された異世界人であることをぼかしつつ、仲間を集めて旅を続け、アルブレア王国に向かっていること、仲間のヒナが地動説の裁判をするためイストリア王国に滞在していたこと、シャルーヌ王国で公開実験をすること、その後、アルブレア王国に再び上陸する予定であることなど、しっかりと丁寧に話した。
途中――それも序盤で、クコはこんな話をした。




