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108 『パブリックエクスペリメント』

 ヒナは玄内に教わったこととサツキと浦浜で話したことを思い返して、すべてつながっていると気づく。

 それにしても、サツキと浦浜で話したときの思い出は、ヒナにとってなんと鮮明な記憶だろうか。つい昨日も語ったばかりのことなのに、また懐かしくも感じるし、昨日のことのようにいつまでも色鮮やかで褪せることがない。

 そして、考えてみればあのときから、本当に地動説を証明する段階まで来たのだ。

 その一歩手前まで来ているのだ。




 宗教側についている裁判官が二人。

 地動説を認めてくれる裁判官も二人。

 残る裁判長がどちらを選ぶのか、最終決定をして、地動説を否定されようとした今このとき。

 どん底に突き落とされたかと思えた瞬間に、救いの手が伸びた。

 手を差し伸ばしたのはディオン大臣。

 あの伊万里屋で助けたディオンが、今度はこちらを助けてくれるらしい。


 ――だから、ディオンさんはさっき、あたしに視線を送ったんだ……。先生の言った通りだった。人助け、してよかった。


 ディオンが紳士的な余裕を見せ、裁判長に向かって言った。


「この件、ワタシに預からせていただけないでしょうか」


 だれもすぐにはなにも答えない。

 答えられない。

 裁判長はディオンの登場に戸惑っている。自分の動きを止められたわけで、またなにをされるかと思うと小さくなるのも無理はない。

 審問官はディオンに対して強気に発言できる立場にないのか、さっきまでのふてぶてしさが引っ込んでいる。

 おそらく、この審問官は自分たち宗教側の息がかかった盤面においてのみ傲慢さを発揮できるのだ。宗教側やイストリア王国がシャルーヌ王国と敵対したり問題が起きた際、責任を持つ気概などないのである。

 ディオンは反論がないとみて、理知的に言葉を続ける。


「判定を下すのはまだ早い。資料の正しさを吟味する時間も必要です。データの不足を追及するなら、待てばいい。何年も待つのは難しいかもしれないが、ひと月くらいならいいでしょう。証明が理解できてないからと認めないのは、愚かなことです」


 こうしてディオンが話している間、ナゼルは自分の身体を抱くように腕を組み、右手を口元にやった格好で、視線だけを動かして裁判官たちや聴衆をぐるりと観察していた。最後に、サツキと目が合う。すると、ナゼルは嬉しそうに口元を緩ませた。


「?」


 ふっと、ナゼルは裁判長に視線を移す。そちらを見ろということだろう。サツキも裁判長に目を向けた。


「そうなると、この裁判は……」


 困惑している裁判長に、ディオンは明快に宣言した。


「我々、シャルーヌ王国が受け持ちます。シャルーヌ王国の首都リパルテ――そこで、振り子の実験をやっていただきましょう」


 そして、サツキを振り返った。


「あの少年も実験をしたいと申し出た。浮橋教授とあの少年がおっしゃった慣性についても、実験してもらいたいと思います。それが正しく行われれば、我々も認めざるをえないですからね。大勢の前で証明されれば、だれにも文句など言えない」

「すなわち、公開実験ですよ」


 ナゼルが短くそれだけ言って、ディオンが念を押すように言った。


「もし、その上でまだ地動説に反論があれば、天動説の研究をまとめて提出し、裁判でもなんでもすればいい。それで、認めてくれますね?」

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