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107 『ネバーフォーゲット』

 ヒナはハッとした。


「あの人! もしかして、あのときの――」

「そうだ。覚えてたか、ヒナ」


 玄内にも心当たりがあるらしい。

 バンジョーが首を突っ込む。


「おい、知ってんのか?」

「おまえもいっしょにいただろ」

「そうなんすか?」

「ソクラナ共和国、『(たい)(りく)()()()』バミアド。(やみ)()ノ盗賊団に襲われていた料亭『()()()()』で、おれたち弐番隊が助けてやった客の中に、あいつがいた」


 玄内からの説明を受け、バンジョーはようやく気がついた。


「そっか! あんときの! 確かあの店、金持ちとかお偉いサンみたいのがたくさんいたっぽいよな」


 ヒナはあのときのことを思い出す。




 弐番隊は伊万里屋に襲撃してきた盗賊団を退治した。

 そこに、ディオンや他の国の要人がいたのだ。

 あのときはヒナもそれがディオンだとは知らないし、どんな人たちなのかも考えていなかった。

 しかも、ディオンがお礼になにか品を渡したいと申し出たのを玄内は断った。ディオンだけじゃなく、だれからのお礼も受け取らなかった。感謝の言葉を受け取っただけだ。

 その際に玄内が言った言葉で、はっきりと心に残っていることがある。

 ヒナが玄内にこんな質問をした。


「はい。なんでさっきお礼の絵画を受け取らなかったんですか? あんな高価そうなもの、手放すのはもったいないですよ。ほかの人たちからもお礼をもらえて、あたしたちの活躍をサツキに見せつけられたのに」

「それはオレも不思議だったぜ。なにか理由があるんすよね?」


 バンジョーも理由がわからなかった。

 玄内は答える。


「ヒナ、おれたちが活躍を見せつける相手はサツキじゃねえ。一般大衆だ。サツキも言ってたろ? 正義の味方として認められるよう行動を積む、と」

「でもお礼くらいいいじゃないですかー」

「お礼でもそうだが、ものをもらうってのはな、一方的でない場合は記憶に残りにくいんだよ」


 これに、ヒナとバンジョーは頭をかたむけて疑問符を浮かべる。


「ヒナ、おまえがだれかに助けられたとする。助けてもらったその相手に金を渡したら、そいつのこといつまでも覚えてるか?」

「なるほど。なにもいらないって言われて渡せなかったり、こっちから渡せるものがないのに相手が善意で助けてくれたりしたら、感謝の気持ちといっしょにその相手の顔をいつまでも覚えてるものかもしれない。ってことですね」


 と、ヒナは納得した。

 バンジョーもあっけらかんとして単なる陽気なだけの青年に見えて、意外と人間通なところがあり、素早く納得を示した。


「あっ、それに絵画は大事にしろって言ってけど、あれもそうですか? 絵画を見るたびおれたちの活躍を思い出せてってことっすよね? 縁があったとか言ってましたよね。それも、おれらと縁があったってことなんじゃないすか」

「そう言っておけば、勝手に思い出すかもな」


 わずかに口の端をあげてにやりとする玄内。


「ふーん。まあ一応わかりましたけど……」


 まだ目の前の利益と玄内の理屈をてんびんにかけて考えるヒナに、玄内はこう付け加えたのだ。


「おまえも自分のことを考えればわかりやすい。サツキが、なんの対価も求めずおまえに協力するって言ったとき、感動しただろ?」




 そう言われたときも、ヒナはあの日あのとき、(うら)(はま)でサツキと話した夕方を思い出した。

 夕焼けに染まった砂浜。

 晴和王国の港町浦浜で、サツキの仲間になると言ったとき……。

 サツキは、地動説の証明を手伝うと約束してくれた。

 仲間になっていっしょに戦ってくれとは言われたが、戦闘力を期待できないであろう自分を仲間に入れてくれたのだ。

 それ以外にはなにも難しい要求をせず、自分の世界では地動説が正しいのだと言って、宇宙の話もした。

 あの夕陽に照らされたサツキの横顔を、なんだかずっと見ていたくなった。サツキにすごい引力を感じた。サツキのやさしみと希望にあふれた顔は、きっといつまでも忘れないだろうと思った。

 だから。

 そのときの親切が小さな伏線を張っていて、今ディオン大臣が恩返しに現れたのだ。

 玄内の言った通りだった。

 正義の味方として認められるよう行動を積む、とサツキが言ったことを玄内は利他の心で実践していたのである。

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