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101 『ノットイナフ』

 年周視差については、サツキとヒナも苦戦したところだ。

 特にデータ収集は大変で、その点は未だに不足していると言ってよい。

 ここらへんの理屈を知らないクコは、サツキの後ろから耳元でささやく。


「それでなにがわかるのですか?」

「地球の公転を証明するために必要なんだ」

「そうなんですかぁ」


 納得したような声を漏らすクコだが、なぜかそのあともサツキのすぐ耳元に顔を近づけたままだ。

 クコは年周視差そのものの意味を知らないが、どういう働きで証明がなされていくのか、手順と裁判の道理のほうが気になっている。夢中になって裁判を見ているクコだったが、ヒナが振り返って、


「ちゃんと座ってなさいよ。くっつきすぎよ」

「す、すみません。集中してまして」


 と、クコは少し顔を赤らめて座り直した。

 また、このあたりのことをわからないのは、聴衆のほとんどがそうで、審問官から呼ばれていた宗教側の人々も同様だった。


「愚か者め」

「神を冒涜している!」


 など、後ろから文句を言うだけになっている。むしろ、文句を言って浮橋教授の裁判中の印象を下げるために用意された存在なので、彼らは聴衆の理解が追いつかないときこそ、だれでも簡単にわかる言葉で非難してみせるのだ。

 浮橋教授は裁判長を見上げた。

 裁判長は静かにうなずく。


「回答を。年周視差についてはどうなっていますか?」

「年周視差は、私の娘と研究仲間が調べてくれました。年周視差はあります。今まで見つからなかっただけで、発見することができました」

「資料はありますか」

「はい。この資料の書き写しもまだありますので、必要な方は言ってください」


 浮橋教授は資料を提出した。

 それらを読み込んで、理解しているかはともかく、裁判官たちは厳格な表情である。宗教側についていない二人はしきりにうなずいている反面、裁判長たち三人は黙っていた。

 途中、フェルディナンド教授が資料を雑に机の上に放る。


「データ不足じゃないか」

「そのようですね。残念だが欠陥の資料であると言わざる……」


 とエドアルディ博士が同調しかけた。

 しかし、裁判長は最後にはうなずいてくれた。エドアルディ博士の言葉を遮るようにして、


「なるほど。わかりました。年周視差については、あとで再度確認するとして、一旦は認めましょう。では、地球が自転している証拠はありますか」


 エドアルディ博士が舌打ちした。

 浮橋教授は彼の悪態を無視して答える。


「これも、私の娘と研究仲間が見つけてくれました。振り子による実験です」


 裁判長はつぶやくように繰り返す。


「振り子?」

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